第2話

「もういや!」 

 

 王宮に来て一か月後、私はひとり叫んだ。

 ふかふかのベッドも何も、私を癒してはくれない。

 初めてこの部屋に足を踏み入れた時は、感動に涙したのに。

 

「どうして、聖女はこの世に一人だけなの?  おかしいわよ!」

 

 泣きたい気分の時ほど、目は乾いて痛いだけだ。

 王宮で待っていたのは、夢のような生活じゃなく――想像を絶する激務だった。

 いれかわりたちかわり訪れる人々を神々しく迎え、癒す。一日中だ。手がしびれるほど、人の頭にかざし――膝が折れそうなほど、立ち尽くして……一日が終わる頃には、私はぎちぎちに絞られたふきんみたいにぼろぼろだ。

 なのに明日も同じことを繰り返すのだ。明日だけじゃない、明後日もその先もずっと……。

 これじゃ、村にいた時とかわらない。

 違うのは、この役目に代わりがいないことだ。

 ふいに召使が入ってくる。あたたかな湯気をたてたコップをトレイに載せて。

 

「お疲れの様でしたので、薬湯をお持ちいたしました」

「……ありがとう」

 

 最初はすごくうれしかった。 

 でも、この薬湯の湯気をかぐだけで、もう胸が悪い。

 

「これで、また明日も励んでくださいませ」

「……はい」

 

 私は苦く、かすかに笑った。

 またこれだ。

 ここにいる人は皆、私に親切にしてくれた。

 でも、それは、私が聖女で――聖女は一人しかいないからだ。

 

「聖女様にしかできない仕事にございます」

 

 この言葉が、こんなに重いとは思わなかった。

 

「こんなんだったら、村にいた方が――」

 

 そこまで考えて、思い直す。村でまた、ただの女になるなんてごめんだ。

 

「でも、少しでいいから休みたい。」

 

 せめて一日くらい、休みが欲しい。息をつくのも苦しくて、私は胸に手を添えた。

 

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