第5話

 紫の髪をほめた時、紫は「どうも」と言って微笑した。私はそれが嬉しくて、嬉しくて――すぐに髪を紫と同じ色に、染めた。


「染めたんだ」


 紫は興味深げに目を見開いて――


「似合ってる」


 と笑った。私は舞い上がらんばかりだった。

 でも、紫は次の週に、髪の色を変えてしまった。


「変えちゃったんだ」

「うん。金が入ったんで」


 紫は機嫌良さげに、毛先をもてあそんだ。私は残念だった。それ以上に、無性に恥ずかしかった。

 けれど、だからこそ、なんてことのないようなふりをして、


「似合ってる」


 と笑い返した。紫は笑っていた。


 そのときと同じ、同じ。おんなじ。

 私は笑って、何でもない風に笑った。

 付き合ったってうまくいくかなんてわからないし……そう思ったけど、それでも、うまくいくようにって、基本思ってることにして。


「ゆーかーり。栄太、そろそろ、誕生

日だよ。何かしないの?」

「そうなんすか?」

「ええっ、聞きなよ、もう! 栄太も何で言わないかな!」


 私は変わらず、二人の応援をしていた。


「ねえ、栄太はね、こういうの好きだよ」


 通販サイトの商品のスクショを見せる。紫はそっと長い首を伸ばして、のぞき込んで「はあ」とうなずいた。


「もう、紫!」


 紫はとことん消極的な彼女だった。私が水を向けないと、何もしない。水を向けられることへの不快感もなく、全部私の言うとおりにしていた。

 信頼されてるんだ。そう思おうとしたけど、


「電気、部屋を出る前に消してね」


 って、頼んでるような気持ちだった。

 栄太がかわいそう。

 ねえ、紫、何考えているの?

 深い茶色の瞳はのぞき込んでものぞき込んでも、奥が見えない。

 私のことだけじゃなく、栄太も見ないの? 栄太のことだけじゃなく、私も見ないの?

 馬鹿にされてるの? ――私も、栄太も。



「大丈夫?」


 紫が栄太に呼ばれて行って、友達が、私の肩にそっと手をおいた。


「桑原って、無神経だよね」

「気づくよ、普通さ」

「やめてよ」


 私は、その瞬間、燃え上がるような羞恥に前進を覆われた。汗があふれる。それは、激しい怒りに転じた。

 無神経なのは、あんたたちも変わらない。毒づいてやりたかった。でも、同時にその言葉に、救われてもいた。

 だから、怒りは全部、ひとつの方向に向くしか

なかった。


 何で、紫は気づかないの。皆気づくのに。

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