第4話
「なあ、
初夏の頃、幼なじみの栄太が私に聞いた。
「な。紹介してよ」
私はうなずくしかできなかった。だって幼なじみだから。そして、その瞬間、私はずっと栄太のことが好きだったことに気づいた。
私は栄太を紫に紹介した。
「大切な友達を紹介してあげるんだから、感謝しなさいよ」
精一杯笑って茶化して、栄太の腕をひじで突いた。栄太は照れくさそうに、明らかに浮かれて紫を見て――なのに、ずっと見ていられないのか顔を逸らすを繰り返していた。
紫は、いつものように、ポケットに手を突っ込んだまま、突っ立っていた。私を見た。私が笑顔で促すと、栄太を見た。栄太は硬直した。紫は動ぜず、図鑑を見るみたいに、栄太を眺めて、それから目を伏せる。
「どうも」
と頭を下げた。栄太ははじかれたみたいに話し出した。紫は浅くうなずきながら、それを聞いていた。
私は紫に気づいてほしかった。
ねえ、私、栄太のこと好きなんだよ、紫。気づいてくれないの?
それとも、気づいてるの?
その夜は、眠れなかった。真っ暗な部屋で、ずっと天井をにらんでいた。
「栄太って、まじいい奴だよ。小さい頃もね」
私はそれから、栄太の話ばかりした。
ことあるごとに、栄太のことを持ち上げて、売り込んであげた。私の声は、上擦ってて、無理してるのが、ばれないか怖いくらいだった。
紫は、音楽でも聞くみたいに聞いていた。時々、うなずくから、聞いているとわかるくらいの熱量で。
それでも時々、私の顔を、あのきれいな顔と目で、じっと見つめるから、私は期待が捨てられなかった。
ねえ、紫、気づいてよ。でも、「気づいてる」なんて、言わないで、そっとわかって、「ごめん、嬉しいけど付き合うとかはまだ」って、栄太を絶対に下げないで言ってよ。
私に対して申し訳ないとかじゃなくて、私のことが好きだから、つき合えないっていう温度を含ませて、ちゃんと断ってよ。ねえ、できるでしょ。
だって、友達だよ?
「二人、絶対お似合いだと思うな!」
それでも、私は二人を応援し続けた。
紫は、栄太と付き合うことに決めたようだった。
「お前、何泣いてんだよ」
「うるさい、だって嬉しいんだもん」
私はうそをついて、ひたすら泣いた。思いを殺して、笑うことにもなれてしまっていた。私の祝福を、紫はすこし目を細めてみていた。
「決め手ってなんだったの」
「んー……」
二人きりになって、私は紫の手を握り尋ねた。紫は、まったくいつもどおりだった。彼氏ができて、好きな人と結ばれて喜んでいる顔じゃなかった。
「まあ、付き合ってみるのもいいかなって」
「……そうなんだ」
紫は最後まで、気づいてくれなかった。
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