第8章 指輪と真実③


 ——たすけてあげようか?


 再び同じ声が耳元に響く。すると、まるで一雫の水が水面みなもに落ちるとそこから水紋が広がっていくように、他の者たちも続けて同じ言葉を繰り返してきた。

 セレナは、直接話しかけられたことで、彼らの正体に見当がついた。

「……あなたたちは、精霊ね?」


 ——そう。私たちは水の精霊。


 セレナの言葉に応えるように、ひとりの精霊がそう言ってクスクスと笑う。それに共鳴するようにして、他の者たちもクスクスと笑い、部屋の中が精霊たちの笑い声に包まれた。


 この世には、魔獣の他にも人ではない存在がいると、セレナは幼少の頃クラニオから聴いていた。精霊や妖精は、その代表だ。

 その際に、妖精と精霊の違いについても聞いていた。


 妖精は、魔力持ちならば誰もが見ることができるが、彼らは自らの意思で人の前に現れることはなく、それらが気に入っている場所を住処にしている。だが、召喚魔法によって呼び出すと応じてくれる、どちらかといえば人間に対して友好的な存在だ。

 対して精霊は、そこにでも現れるが、魔力持ちの中でもその姿を見ることができる者とできない者がいる上に、たとえ召喚魔法で呼び出しても応えてくれるかどうかは彼らの気まぐれ次第。人に対して有害ではないが、必ずしも友好的とは限らない、自由かつ残酷すぎるほどに純粋な者たちのことだ。


 同じ魔力持ちにも関わらず、カレンはこれらの存在を全く気にしていない様子だった。もしかすると本当に気付かないふりをしているだけかもしれないが、こちらの呼びかけもなしにこちらに話しかけてきたその様子から、彼らが妖精ではないと断定したのだった。

 セレナは緊張するように顔をこわばらせたが、落ち着きを取り戻すように大きく息を吐く。


 ……少しでも彼らを恐れたり、心にスキを作れば、身も心も持っていかれてしまう。


 セレナは毅然とした態度で精霊たちに尋ねた。

「助けるって、どういうこと?あなたたちは人間のことにあまり関わらないって、聞いていたんだけど」

 クラニオから聞いていた話では、精霊は自ら人間たちの事柄に干渉することがほとんどない。だが、万が一彼らが気まぐれにこちらと関わってくるようなことがあれば、その際には彼らが欲するものと、こちら側の要求を明確に、具体的にして交渉しなければ、命になる。


 彼らからの救いの手が、全てこちらにとって最良の結果になるとは限らないのだ。

 尋ねられた精霊たちは、相変わらず楽しそうにクスクスと笑ってから、子どものように無邪気に答える。


 ——檻の中の、半魔の子に会いたいんでしょ?手伝ってあげる。

 ——半魔の子の前まで、運んであげる。


 どこか不気味にも見える笑みを浮かべながら、彼らは悪魔のいざないのように囁きかけてくる。

 半魔とは、魔族寄りの半端者のことだ。今この辺りで檻の中にいる半魔というと、ニコラオスだけなので、半魔の子とは彼のことだろう。

 この水の精霊たちは、セレナをニコラオスの前まで連れて行ってくれるというのだ。恐らく、セレナとカレンの話を聞いていたのだろう。


 精霊はどこにでもいるが故に、どこにいても人の言葉を聞いている。彼らが気まぐれに人に力を貸すのは、人の言葉をよく聞き、面白そうだと感じるからだ。

 彼らの心は、子どものように純粋で、悪魔のように残忍。

 セレナは頭の中で慎重に言葉を選び、口を開いた。

「……どうして知っているの?私の話を聞いていたの?」


 ——聞いていたよ。わたしたちは、独り言も、陰口も、噂も、全部聞いている。


「……どうして手伝ってくれるの?何か欲しいものとか、して欲しいことがあるの?」

 そう尋ねると、精霊たちはおかしそうにクスクスと笑った。嘲笑するようなその笑い声は、残忍さも感じるが、やはりどこか無邪気。

 何を要求されるのかと緊張の面持ちで返事を待っていると、彼らは驚くほど陽気な声で答えてきた。


 ——あなたは、水のように清らか。

 ——そして純粋。

 ——あなたにはきっと、水魔法の才能がある。これから訓練すれば、魔力の代わりにわたしたちの力を使えるようになる。

 ——でも今はできないから、簡単なお願いだけでいいよ。

 ——そう、とっても簡単。


 複数の精霊たちが、次々に言葉を紡いでいる。至る方向から声が聞こえてきて思わず酔ってしまいそうになったが、セレナは必死に堪えて、「何?」とその先を促した。

 精霊たちは声を合わせ、先ほどよりももっと無邪気に、恐ろしいほど幼い声を合わせて発した。


 ——“ユア”を連れてきて!!


「……ユア?」

 聞き馴染みのない響きの、聞いたことのない言葉。かろうじて人の名前なのだろうということは分かったが、そんな名前の人物に心当たりはなかった。

 ……なぜ精霊たちは、聞いたことのない人物を連れてくることを“簡単”だと言ったのか。

 セレナは不思議そうな顔をしたが、精霊たちはそんなことは気にせずに相変わらず楽しげな声で言葉を続ける。


 ——ユアは、わたしたちの友達!

 ——でも、最近は忙しくて会いにきてくれないの。

 ——だから、ユアに“また遊びに来て”って伝えて欲しいの。簡単でしょ?


「……残念だけど、私はそのユアって人のことを知らないわ。だから、他のことに……」

 セレナが断ろうと口を開くと、遮るようにして精霊がまた話し出す。


 ——半魔の子のそばにいる、交ざった子に聞いてみたら?

 ——きっと知ってる、ずっと近くにいるもの。


「え……?」

 近くに、いる……?

 思わぬ言葉に、セレナは困惑した。

 精霊たちは、聞かれたこと以外は隠して人を誑かすが、聞かれたことに対しては嘘を吐かない。なので、彼らの言う“ユア”という人物がセレナの近くにいるという言葉に、嘘はないのだろう。

 だが、一体それが誰のことなのか、何故彼らがその人物を求めているのか分からない。そして、ここで安易に彼らの誘いと要求を受け入れていいのか、迷っていた。


 たとえその“ユア”という人物が誰か分かって、その人に彼らの伝言を伝えられたとしても、逆にその人が精霊たちの気まぐれに巻き込まれて、危険な目に遭うかもしれない。

 かといって、この誘いを断ったらニコラオスは……。

 しばらく考え込んでいると、精霊たちは勝手に言葉を続けた。


 ——じゃあよろしくね。水の子。

 ——約束したからね、水の子。


「えっ……ちょっと、待って……っ!」

 慌てた様子でそう呼び止めたと同時に、精霊たちの身体が激しい光を放つ。視界を遮るほど白く、刺すような激しい光に、セレナは咄嗟に両手で目の前を覆い隠した。

 どこか熱くも感じるその光。それは次の瞬間、水の中のように冷たいものに変わった。


 冷たいが、心地良い。

 無意識に強く閉じていた目をゆっくりと開けると、先ほどまで自室にいたはずのセレナはいつの間にか水の中にいた。


 いや、海だ。

 どこから差してきているか分からない光に照らされて、キラキラと綺麗に輝いている。が、あたりは水ばかりで魚はおろか海底すら見えない。

 セレナは思わず口を手で覆った。

 息が、できない!!

 そう思っていると、彼女の耳元で精霊が囁いてくる。


 ——大丈夫。本物じゃない、息できるよ。


 その姿は見えないが、優しい声が響いてくる。その声を信じて、セレナは思い切って息を吐いてみた。すると、水の中だというのに、普段と全く同じように呼吸することができたのだ。

 安堵するようにため息を漏らすと、再び精霊の声が耳元で響く。


 ——あっち、あっち。

 ——半魔の子まで繋いであげる。あっちだよ。


 声に導かれるまま、視線を動かす。精霊たちの姿は見えないが、不思議と彼らが指し示す方角が理解できた。そちらに向かって視線を向けると、まるで水面に映る景色のようにとある情景が映し出された。

 暗い牢屋の鉄格子の中に、白い髪の若い男が座っている。両手首には赤い魔石が埋め込まれた封魔錠がかけられ、鎖に繋がれている。俯くその顔から覗くその瞳は、朝焼けのような赤い色。

 ひどくやつれているが、その男は間違いなくニコラオスだ。


 そして、彼が閉じ込められている牢の前に、別の男が立っている。それは、青い衣装を身に纏ったクラニオだった。今までのセレナの前では見せたことがないような厳しい表情で、威圧するような目でニコラオスを睨みつけている。

「ニコラ…クラニオ従兄にい様……」


***


「…セレナに何をした、侵入者」

 怒りに震えるような声が降ってきたので、ニコラオスは視線だけでその声を追った。

 今にもこちらを締め殺さんばかりの殺気で見つめてくる、炎のような橙色の瞳を持ったその男は、オフィーリア・バラクの唯一の息子。クラニオ・バラクだとすぐに分かった。


 クラニオは鋭い眼光でこちらを睨みつけてきている。無理もない、自分の従妹で、婚約者でもあるセレナが、侵入者と接触していて、言葉も交わしたとなれば、誰しも冷静さを失うだろう。

 ニコラオスはそれを全て理解した上で、敢えて小馬鹿にしたような笑みを浮かべ、口を開く。

「何を焦っている?副隊長様よ。俺がそいつに何かしていたら、何か問題なのか?」

「……あの子が無茶なのは、俺がよく知っている。子どもの頃から、ずっとあの子を見てきたんだからな。だが、いくらあれが無茶でも、魔獣が飛び回る城下にひとりで降りるような危険な真似をするほど分別ふんべつがつかない子じゃない……お前が何か吹き込んだんじゃ無いのか」

「……」

 ニコラオスは口をつぐんだ。それについては、ニコラオスも多少の責任を感じていたのだ。


 彼女があのような無茶を平気でやるような女だと、はじめに会った時に視て知っておけば、“禁断の書”や半端者の王の話など、むやみにしたりはしなかった。

 なのに、彼女の全てを見抜いているような瞳とお人良しな性格と本能的に感じる安心感に気が緩んで、何でも話してしまった。


 ニコラオスがあの日に彼女を魔獣から助けたのは、彼女が城下にいるのを見た時、「俺のせいだ」と心が咄嗟に叫んだからだった。

 ……彼女に感じた、不思議と抗えない安心感。この目の前に立つ男に捕らえられた昨日、ニコラオスは残酷にもその真実を知り、その正体について気付いてしまった。

 そして、自分が左図下に彼女に抱きつつあった特別な感情が、ひどくに醜く、汚らしいものだったと知り、絶望したのだった。


 クラニオは、何も言わず再び俯いてしまったニコラオスを見下ろして、不思議そうな顔をする。彼はまだ、この男を敵だとため、ニコラオスの心を覗き視ることができなかった。


「おい、聞いて……」

 そう言いかけたその時。クラニオは自分の背後に何かの気配を感じた。

 それは、水のせせらぎのように静かで穏やかでありながら、大波のように荒々しい。初めて感じる気配のはずなのに、クラニオは何故かその気配の正体を知っていた。


 いや、まさか……。

 気配のした方を勢いよく振り返る。すると、水の陣のような円が天井に出現し、そこから水音を立てて小さな人影が落ちてきた。


「いったっ!」

 その人影はひどく尻餅をついたようで、悲鳴のような声を上げると、腰のあたりを庇うように摩って呻いていた。

 クラニオの心には警戒心よりも、驚きと心配が勝った。

「セレナ!?」


 驚愕するようなクラニオの声に、セレナはバッと顔を上げ、安堵したように満面の笑みを浮かべた。

従兄にい様!よかった、成功したみたいで」

「なんでここに……いや、そもそもどうやって……」

 困惑を隠せない様子で尋ねてくるクラニオの言葉を遮るように、セレナはニコラオスの方へ視線を向け、「ニコラっ!」と焦燥した声で呼びながら鉄格子の前まで駆け寄った。


 セレナに呼ばれたニコラオスは、一瞬驚いたように目を丸くして彼女を見たが、すぐにふいっと目を逸らす。セレナはニコラオスの前に膝を付くと、震える心を必死に抑えながら、努めて笑顔を見せた。

「ニコラ、だよね。怪我してない?大丈夫?髪、本当に真っ白だね。それがニコラの本当の姿なんだよね。雪景色みたいで、その色も私は好きだな」

「………」


 セレナが何を言っても、ニコラオスはピクリとも反応しない。が、それでも構わず、セレナは言葉を続ける。

「あ、訓練。急に行けなくなってごめんね。実はあの後、覚醒の熱が出て5日くらい動けなかったの。でも、ニコラのおかげで、無事にこうして覚醒できたわ。ここに来れたのもね、覚醒したお陰で水の精霊と話せるようになったからなの」

「……精霊?」

 それまでは変わらず無反応だったが、最後のその一言にはじめて眉根を寄せた。


 が、その言葉に反応したのは、ニコラオスだけではなかった。

 状況が読めないといった様子でポカン、とセレナの姿を見下ろしていたクラニオは、セレナの言葉で急に覚醒したようにカッ、と目を見開いて怒声に似た声を上げた。

「精霊だって!?セレナお前、精霊と契約したのか!」

 クラニオの声に、セレナは思わずビクッと肩を震わせる。


「け、契約っていうか、助けてくれるっていうから、お願いして……」

「それが契約したってことだ!まったく、無鉄砲にもほどがある…っ。対価は?何を求められた!?」

 ひどく焦燥した様子でクラニオが尋ねてくる。


 精霊と取引したということは、それほどまでに危険なことなのか。クラニオから聞いていて頭では分かっていると思っていたセレナだったが、彼の今の様子を見て、改めてそれを理解した。

「え、っと。対価は、“ユア”っていう人に伝言を伝えるっていう……」

「…“ユア”、だって……?」

 その名を聞いた途端、クラニオの顔が怒りと焦りから、驚きに変わった。目の前でやり取りを見ていたニコラオスは、何も知らないのかキョトン、としているだけで、何も言わない。

 しかしクラニオは、その名に聞き覚えがあるらしい。少し考えるように右手を顎に当て、うーんと低く唸ってから静かに口を開いた。


「……セレナ、お前はその“人物”を知っているのか」

「ううん。でも、精霊たちは従兄にい様が知っているだろうから聞けって」

 セレナの返答に、クラニオはまた考えるような顔をして低く唸った。

 ……正確には、彼らは“半魔の子のそばにいる交ざった子”に聞けと言ったのだが、ニコラオスの近くにいる交ざった子……交ざり者は、彼の監視をしているクラニオしかいない。

 だから、クラニオに聞けばいいのだろうと思っていたのだが……。


 クラニオはしばらく難しい顔をしてから、小さくため息を吐く。

「まぁいい。その話はまた後でしよう。それより、セレナ。この男とずいぶん親しいようだが、どういう関係だ?」

「あ……」

 セレナは思わず息を漏らす。


 話題が自分のことに移ったニコラオスは、ハッと我に返り、セレナから目を逸らした。ニコラオスの様子を見て、セレナは少し答えを躊躇ったが、意を決して、クラニオをまっすぐ見つめながら答えた。

「友だちよ。私に魔力の扱い方を教えてくれて……」

「友人じゃない」

 言いかけたセレナの言葉を遮るように、ニコラオスが食い気味で否定した。


 その声には拒絶にも似た強さがあり、セレナは驚いてニコラオスの方へ勢いよく振り返ると、彼はさらに言葉を続けた。

「魔力の扱いを教えたのは、直接接触することで情報を得ようと思っていたんだ。あわよくば恩を売って、こちらに有益に動かそうとも考えていた。……たいした収穫にはならなかったけどな」

「ニコラ?何言って……」

 言いかけて、気が付いた。


 ニコラオスの心が、何かを隠そうとして固く閉ざしていることに。


 彼は、何かを隠している。大量に封魔錠を付けられていて、鎖で拘束されて、“抵抗”する力はほとんどないはずなのに、それでも何かを必死で隠そうとしている。

 だが、その中でもわずかに感じるのは、彼の心がいつもと変わらず、純粋で優しいということだけだ。


 セレナはキッとニコラオスを睨むと、怒るような声色で言い放つ。

「嘘つき。そんなつもりなかったくせに」

「…は?お前、何を根拠に」

「分かるよ。もん。何を隠してるの?私に関係ないことじゃないよね。だから隠してるんでしょ」

「——っ」

 ひどく驚愕したのか、ニコラオスは息を呑んで目を見開いた。心なしか、その赤い瞳が光を放ち、揺れている。


 “感情”が動くと、輝きが変化する魔力持ちの瞳。ニコラオスが見せた一瞬のスキによって、セレナの脳裏にニコラオスの思考が流れ込んできた。

 雪崩のように押し寄せてきた彼の感情は、驚きと、戸惑いと、後悔。その奥で渦巻く強い愛情と、絶望だった。

 何に絶望しているのかは分からない。だがきっと、何かを知ったのだ。彼がそれを隠しているのは、その元々の純粋さと、優しさによるものだ。


 だから、たとえその口からどんな言葉が紡がれようとも、その全てが彼の本心だとは思えない。

「……どうしたの、ニコラ。何を知ったの?」

「………」

 ニコラオスは何も答えることなく、静かに俯いた。


 沈黙するニコラオスの顔は、この上なく苦しげな顔をしていた。こんな顔の彼は初めて見る。こんなに苦しい思いをするほどの、一体どんな事実を知ったというのだろうか。

 セレナが不安の眼差しでニコラオスを見つめていると、そんな彼女の様子を見ていたクラニオが、何かに気付いたように目を見開く。


 ……まさか、この2人は……。


 クラニオは動揺を隠しきれない様子を見せたが、必死で平静を装い、静かな口調でセレナに告げた。

「セレナ。その男は、俺たちと同じだ」

「…?従兄にい様、それ、どういうこと?」

「そいつは、行方不明になっていた国王の双子の妹、アグネス王女の息子。つまり、俺たち3人は従兄妹いとこ同士ってわけだ」

「えっ……」

 セレナの中に大きな衝撃が走った。


 ニコラオスが、私の従兄妹いとこ

 私が、生まれて初めて異性として好きなんだと自覚した人が、まさか血縁者だったなんて……。


 だが、セレナはまだ絶望してはいなかった。

 このテオスの貴族、王族間では、己の家の血を絶やさないために血縁同士が交わることがある。3親等までの関係ならば、結婚することも許可されている。現に婚約者同士であるクラニオとセレナも、血のつながった従兄妹同士だ。


 そう考えて安堵しかけたその時。それを否定するように「違う」とニコラオスの声が響いた。

 クラニオとセレナがニコラオスの方を振り向くと、彼はさらに言葉を続ける。

「俺とあんたはそうだろうが、セレナは違う」

「どういうこと?ニコラ、何を知ったの?」

 セレナの問いかけに、ニコラオスは俯いていた顔を上げ、初めてセレナの目を見た。


 真剣な眼差しのその奥に、深い絶望と悲しみが見え隠れしてる。が、その表情は何かを決意したような色を持っていた。

 そして、重々しく口を開く。


「俺とお前は、異母兄妹かもしれないんだ」

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あなたに会いたい 〜ただひとりの人〜 早沙希貴志 @HYT1607

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