他者を傷付ける覚悟
1.ヴォイド
「やーっぱり、この姿の方が話を聞いてもらいやすいね~。君もなんだかんだ男の子ってことかにゃ~?」
自らを猫像と名乗った少女は愕然とする私の前で喚いている。なんなのだこれは? 変身魔法とか、その類のものなのだろうか。
そんな私の心情を知ってか知らずか、少女は相変わらず不敵な笑みを浮かべたままだ。
……いや、こんなことに気を取られてる場合じゃない。私には帰るところが――
「あ。もー、すぐそうやってどっか行こうとする! ちょっと待てにゃ!」
しかし行く手を遮られた。
「さっきも言ったけどここは【ラグの世界】。今頃あの林道はガックガクで、時間の流れは極めて遅い――だから、少しくらい話を聞いていけにゃ」
ラグ? どうしてそんなことが分かるのだろう。
普通なら嘘だと相手にされないような事だが……この少女には妙に説得力があった。以前、【ビギナーズラック】の力を貰ったからだろうか。
確かにスキルの付与なんて常人には出来ないことだ。
「ようやく聞く気になったにゃね。よおーし、よく聞くにゃ」
少女はそう言うと大きく息を吸い込んだ。
「お前……どうしてあんなのに負けそうになってるんにゃ!」
「う……」
「みゃーが力を与えた者に、あんっな情けない姿晒してほしくねーのにゃ!」
それは叫び声だった。
けれど、理不尽だ。どうして? だって奴はレベル70ものアサシンだ。それはゲームでもトップクラスに強い部類だという。
圧倒的なレベル差、手を抜かれてもまるで歯が立たない力量差。そして、私の……無知さ。
考えるまでもない。勝てない要素何ていくらでも……。
「それはお前に勝つ気が無いからにゃ。レベル差? 上位クラス? 最初から勝とうと思わなくてどうするにゃ?」
少女は言う。
「なら、どうすればいいのだ?」
「ふん。それは自分で見つけるにゃ。みゃーが言いたいのは、おまえは
運? いくら運が良くても、どうやってこの戦闘力の差を……。
「――まさか」
そこで私はハッとした。そうだ、スイちゃんも言っていたじゃないか。 私は運が良い。私が勝てるであろう要素は、そこだけだ。それで良かったんだ!
だが……まだ足りないものがある。剣は折れ、攻撃の手段を無くしてしまった。
少女はやはり、そんな私の心を見透かしたように今度はくふふと笑う。
「
少女はそう言うと、ふわっと浮遊して私の傍まで近付いた。
声を発することが出来ない。まるで声の出し方を忘れたみたいに、喉に力が入らない。
とん、と彼女の指先が額に触れる。そして、意識が遠くなっていく……。
少女はもう笑わない。まるでこれから先の未来を全て予見しているかのように悟った目で、視線だけで私の身体を貫いた。
「【他者を傷付ける覚悟】――それを授けよう」
『ユニークスキル
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