ふしぎな視線

1.シルバー炭鉱



 薬の素材の一つである【煉獄の灰】――それを直接手に入れるのは難しい。モンスターが落とす訳でも無ければ、どこかに落ちている訳でもない。


 唯一手にする方法……それはシルバーキャットにいる腕利きの鍛冶屋に【ボムチャンの欠片】を合計100個渡しての交換のみ。


 つまりクエスト達成の為にクエストを行う必要があるのだ。そこで私たちはシルバー炭鉱と呼ばれるエリアに来ている。


「ボムは近付けばこう、かってにばくはつするです」


 スイちゃんが赤い風船のようなモンスターに近付き、すぐに離れる。


 ボムチャンはプレイヤーが近づくと大ダメージの自爆技を行うようだ。しかしすぐに離れればダメージを受けずに倒すことが出来る。賢い方法だと思った。


 あとに残された欠片を拾い集めたスイちゃんは言う。


「これをあと99こ」


「途方もない数だな……」


「しかたないです。てわけするですよ」


 そんな訳で別れての作業となる。



 経験値こそ入らないが自爆技に気を付ければ楽に狩れる相手だ。三十分もしないうちにほとんど集め終わってしまう。


『アイテムを入手しました【カード:ボムチャン】』


 すっかり重くなったバッグの中に見慣れないアイテムが紛れ込んでいた。カード……そういえば、初めてスライムモンキーを討伐した時も入手したことがあるな。

 一体何に使うか見当もつかないが。今度誰かに聞いてみようか?


 そんなことを考えていた時――


「こんにちは、チキンさん!」


 私の前に冷凍ミカンことミカンさんが現れた。純白のローブに身を包んだ彼女の手には新調したであろう大きな杖が握られている。


「やあ、ミカンさん」


「こんなところで何してるんですか?」


「それは……」


「チキン。なにさぼってるです、わたしはもう10こも集めて……あ」


 そこに丁度、欠片を両手いっぱいに抱えたスイちゃんがやってきた。


「スイさんもいらしたんですね。こんにちは!」


「です」


 ぺこり、と会釈しあう二人。

 私は事のあらましをミカンさんに説明する。


「そういう事ですか! それなら私にもご協力させてください!」


 ミカンさんは笑顔でそう言ってくれる。かくして三人のパーティとなったわけだ。



 集めた欠片を鍛冶屋に渡して【煉獄の灰】の入手も完了。スイちゃんは私の集めた数を見て『……運よすぎです』と目を丸くしていた。

 よく分からないがこんな所でも【ビギナーズラック】は発動しているらしい。


「さて。残るは【天使の羽】のみか」


「それに関してはさっぱり、です」


「それなら付いて来てください! ちょっと遠くまで行くことになりますが……」


 彼女の話によると船で渡った先にこことは別の大陸があるという。

 最後のアイテムを入手する為にはそこに位置する町【オリシア】に行く必要があるようだ。


「それじゃあよろしく頼む、ミカンさん」


 もう少しで薬の素材は集まり、あの兄妹も救われる事だろう。そう思うと足取りも軽くなる。


 しかし……ふと、何か背中に視線を感じて足を止める。


 振り返ると人影があったが、すぐにサッと隠れてしまった。なんだ? 見覚えがある恰好をしていたように見えたが……。


「どうしたんですか?」


「いや……」


 これまでの過程で疲れもあるだろう。

 気のせいだと思い、その場を後にするのだった……。

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