VS ゴールデンスライム

1.ブロンズケイヴ最奥



 薄暗く視界の悪い洞窟を進み続けた私たちはやがて大部屋に辿り着いた。

 四角く切り取られたような部屋の壁に沿うよう、いくつも松明が置かれているので視界は明るい。


 そして、薄い光に照らされて中央に鎮座する、我々の背丈の倍はあろう巨大な金色のスライムを発見した。


 これまで感じた事が無いほどの気迫……あれがこのダンジョンを守るボスなのだろう。

 どうやらまだこちらに気付いていないようで、じっと黄昏ているように見える。


「あれがボスのゴールデンスライムですね……。皆さん、気を付けて下さい」


「すごくおっきい、です」


 額の汗がじんわりと頬を伝う。しかし手強い相手だろうが、今の私にはここまで来たパーティメンバーがいるのだ。信じて戦う他ない。


 私は皆と顔を見合わせた。言葉は無く、ただ静かに頷く。それが始まりの合図だ。

 

「【シールドバッシュ】!」


 部屋に入って一番、先手を打って駆けた私は盾でスライムを殴り付けた!

 この技には相手をスタンさせる効果がある。短い間だが、そこに隙が生まれ一気に攻撃を畳み掛けることが出来るのだ。


 すかさずスキルを放つスイちゃんたちに合わせて続け様にヘヴィストライクを撃つ。

 しかしゴールデンスライムは一瞬怯んだものの、スタンが解けたのか大きく身体を回転させて抵抗した!


 おかげで、接近戦を仕掛けていた私と海パンさんは軽く吹っ飛ばされる。


「大丈夫ですか、二人とも!」


 すぐにミカンさんから回復魔法が飛んできて、傷を受けた身体が多少癒された。完全回復に至らない辺り、さすがボスといったところか……。


 私が体勢を立て直している間に海パンさんは次の攻撃を放つ。

 エリアボスとの戦闘でも見せてくれた【影縫い】。一時的にゴールデンスライムの移動が封じられ、追撃を受けずに済む。


 さすが高レベルの忍者といったところか、動きが早い。


「すまない。助かった」


「なあに、いいんでござるよ」


「ふたりとも……はなしてる場合じゃ、ない」

 

 見れば影縫いの効果が切れたゴールデンスライムがこちらに飛び掛かってきている。

 盾を構えて待ち受けるが、先ほどの攻撃を見るに……このモンスターの攻撃力は半端ではない。果たして上手く耐えられるのだろうか……。


 しかしそんな私の心配とは裏腹に簡単に耐えることが出来る。なぜ? 考えたがすぐに分かった。

 身体の皮膚が鋼のように固くなった感覚……明らかに防御力が上がっている。そして、聴き心地の良いハミング。


【鋼体の歌】ディフェンスソング……ぼうぎょがあがる、です。今のうちに早くやるです」


 スイちゃんからの援護を受けて防御に余裕が出来たお陰で、こちらも攻撃を叩き込みやすくなる。


 再びスキルを使って猛攻を仕掛け、反撃が来たら二人の支援で耐える……何度かそのサイクルを繰り返していき、確実にゴールデンスライムは弱っていった。


「いいぞ、もうすぐだ!」


 このまま押し切れると思い切れた矢先――異変が起こる。

 ゴールデンスライムが抵抗を止め、その巨体を大きく振るわせ始めたのだ。


「あれは何をしているのだ?」


「……! 召喚魔法です! みんな離れて!」


 ミカンさんが声を張り上げるのとほぼ同時に、ぽぽぽぽん、と軽快な音が辺りに響いた。


 なんと目の前のゴールデンスライムの身体から小さなスライムが大量に飛び出てくる! 彼らは一斉に私たちに襲い掛かり、あっという間に体力を削られてしまう。


「う……ぬめぬめ、きもちわる、です」


 大量のスライムに埋もれて頭だけを出したスイちゃんが呻く。シュールな光景にも見えるが、彼女の体力はもう心もとない。


 これは大変だ! すぐにミカンさんに支援を――


「ふぇ、ふ、服の中に! いやっ……!」


 遅かった。スライムは既にミカンさんの身体を覆い、とても身動きが取れる状況ではない!


 それに彼等の粘液には服を溶かす――もとい、防御力を下げる効果まであるらしい。白く清いローブは布面積が格段に小さくなっており、白い肌が露わになってしまっている。


「あの、できれば見ないでください……」


「えっち」


 そうは言ってもこのままでは……。


 なんとか助け出したいが私一人の力では不安だ。ここは海パンさんと合わせて……そういえば、彼はどこだ?


「やめるでござる! 拙者の服を溶かさないで欲しいでござる! あぁっ!」


 何てことだ。とても見てられず目を背ける……彼はもう助からない。


 猿の手を握り締め、自分の周りのスライムを払う。鎧までは溶かせないようで私の装備はほとんど無事な事が幸いだ。

 

「チキンさん! 今の召喚で本体の体力も消耗しているはずですから、後少しです……!」


 私はすっかり小さくなったゴールデンスライム本体と対峙する。体力も少なく、他の皆を助ける余裕がない以上一人でやるしかない。

 しかし残りわずかとはいえ、タンクである私の火力で押し切れるのだろうか?


 ……そこで思い出す。【ビギナーズラック】その効果の一つを。


 戦士職では不可能なクリティカル攻撃を可能にする……ならば、賭けてみるしかない!


 私は渾身の一撃を振るうべく、こちらに突撃してきたゴールデンスライムに向かい果敢に飛び掛かる――



「【ヘヴィストライク】!」

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