初めてのダンジョン
1.ブロンズケイヴ
パーティリーダーのミカンさんが門番らしき鎧の男に話し掛けると、私たちは洞窟の中へと通された。
洞窟には所々松明が設置されているものの薄暗く、改めて気を引き締める。ここにモンスターがいるとしたら、どこで奇襲されてもおかしくないのだ。
しかしどうにも違和感がある。あれだけ入り口には人がいたのに、ここは私たち以外の姿が見えない。
「他の人たちはどうしたのだ?」
「インスタンスが分かれてるんですよー!」
ミカンさんが答える。
「いんす……?」
しかし私はさっぱりだった。
「……なんとなく分かってたですけど、チキンはなんにも知らないですね」
それを見かねてか、スイちゃんが呆れた様に補足する。
パーティごとに独立した洞窟を攻略するのだと……少し難しかったが、これはゲームだと思えば納得がいった。確かに、あれだけの人が洞窟に入っては窮屈だろう。
ようやく合点がいったところで突然、暗がりから何かが飛び出して来た。
【角スライム】……先ほどスイちゃんと狩っていたモンスターだ。誰よりも早く私は駆け出す。
「ここは任せてくれ!」
そう言い【猿の手】を大きく振りかぶり渾身のヘヴィストライクをお見舞い……させたのだが、角スライムはまだピンピンしている!
反撃を受けそうになり慌てて盾で防ぐも、想像以上の衝撃に身体が押された。前に戦った角スライムより明らかに強い事が分かる。
「ん。【ダブルアロー】」
「援護するでござるよ!【ツインエッジ】!」
スイちゃんと海パンさんが後押ししくれたおかげで、やっと角スライムを倒すことが出来た。今の戦闘で若干受けた傷もミカンさんが癒してくれる。
彼女は言った。
「ダンジョンの敵はパーティ用に強化されているんです。だから落ち着いて、四人で協力しましょう!」
「拙者たちは火力を出すでござるから、チキン殿には敵を引き付ける役をお願いするでござるよ!」
「……分かった。任せてくれ、私にはこの盾がある」
パーティ。それも四人で集まって挑むダンジョンともなると協力が欠かせないのか。今回も学ぶ事が多そうだ。
改めて気を引き締め、さらにダンジョンを進んで行く。最初と同じ要領で戦闘を繰り返していくうちに、四人での戦いにも段々と慣れてくる。
複数の敵の注意を一手に引き受けた時はどうなるかと思ったが、ミカンさんの手厚いヒールやスイちゃんたちの強力な攻撃により、こちらの体力が持っていかれる前に決着を着けることが出来た。
仲間を信じる事で一人では困難な場面も乗り越えられる……。そんな調子で、どんどん先に進んで行く。
2.ブロンズケイヴ中層
「みるです。お宝です」
ある程度進んだところでスイちゃんが指差した。そこは暗がりだったが【アーチャー】には人より遠くを見渡せる能力があるようだ。
少し進むと確かに、古びた宝箱が置いてあるのが見えた。
「これは……誰が開けましょうか?」
どうやら宝箱の中身を貰えるのは一人だけのようだ。中身はランダムらしく、開けた人の運によってレアアイテムの出現率が上がるらしい。
運……それを聞いて一番に、私の持っているスキルを思い出す。
「私は【ビギナーズラック】というスキルを持っている。試してみてもいいだろうか?」
「……ビギナーズラック?」
しかしこれまで色々教えてくれたミカンさんが首を傾げる。スイちゃんも怪訝そうな目で私を見ていた。
「もちろん、中身は皆に譲るつもりでいる」
一番レベルが低いのは私だ。ここまで引っ張ってくれた皆にそうするのは当然の事。
しかしスイちゃんは首を振った。
「そうじゃないです。ビギナーズラックなんてスキル聞いたことがなかったです、から」
「スキルとしては拙者も存じませぬが、チキン殿の所謂『ビギナーズラック』に賭けてみるのも面白そうでござるな」
「中身の譲渡については見てから考えればいいですし、どうぞ開けちゃってください!」
どうやら誰もスキルについては知らない様だが……ともかく、開封の許可は貰えた。緊張しながら宝箱に手を掛ける。
その時ふと、罠だったらどうしようと思ったが――杞憂だった。
中には煌びやかな宝石を付けた指輪が一つ。それは深い海の様な宝石を付けた……【アクアマリンの指輪】。
前にミカンさんに貰った【
「どっちもきれい、です」
「ああ。これは前にミカンさんから貰ったものだ」
「アクアマリンでござるか! 魔力を高めることの出来るレアアクセサリーでござる。チキン殿、言うだけあるでござるな」
どうやらこういった中間層で見つかる宝箱のほとんどは、簡単な回復アイテム等の消耗品らしい。
【ビギナーズラック】。ちゃんと機能しているようだ。あの猫像へ感謝するとともに、私は皆を振り返った。
「魔力なら……これはミカンさんに渡しても良いだろうか?」
「もちろんでござる!」
「んー。んー……。まあいい、ですよ」
「えっ! 大丈夫ですよ、そんな高価そうなもの……申し訳ないです」
ミカンさんはそう言うがそもそも、このパーティを組んでくれたのはミカンさんだ。
「何を言う。これは貴女が付けるべきだ」
「……分かりました。ありがとうございます、皆さん」
そう言いぺこりと礼をするミカンさん。
そんな中私は彼女の前で地面に片膝を着き、「失礼」……声を掛けその手を取った。
「ふぇっ?」
「少しじっとしててくれ」
そうして丁寧に彼女の指に指輪を嵌める。
「ほら、良く似合ってるじゃないか。ミカンさん」
「あ、ありがとう、ございます……?」
頬を紅潮させ、何やらそわそわとするミカンさん。きっとアクアマリンから溢れ出る魔力に興奮しているに違いない。
ここから先はきっと更に強力な魔物が出て来るはずだ。ここで彼女の戦力を強化できたのは大きなアドバンテージとなるだろう。
より一層武器を握る手に力を込めて、私は再びダンジョンを攻略せんと歩を進める。
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