ロールの仕組みを知らない


1.ブロンズケイヴ前



 紆余曲折あって訪れる事の無かったスライズへようやく辿り着いたが、観光はそこそこにして私はささっと用事を済ませた。

 

【ダンジョン開放:ブロンズケイヴ】


 という訳でダンジョン前まで戻ると、即座にパーティ申請が飛んでくる。

 待ち合わせをしていたスイちゃんだ。見つけて駆け寄ったが、何やら手に大きなアイテムを持っているようだ。


 あれは……盾?


「すまない。待たせてしまったな」


「だいじょうぶです。わたしも今来たですから」


 そうなのか? 急いで来たとはいえ、ダンジョンに直行したスイちゃんには随分余裕があったはずだが……。

 

 そんな私の疑問をよそにスイちゃんは抱えていた大きな盾を手渡してくる。


「これ……買ってきた、です」


「盾を? もしかして私にか?」


「当たり前です。アーチャーは装備できないですから」


 そう言って渡されたのは【コバルトの盾(★)】という、今使っている木の盾とは比べ物にならないくらい立派で丈夫な物だ。

 しかし戸惑ってしまう。


「い、いいのか? 私は貴女に恩義を感じているが、感謝されるような事は何も」


「なんかいい人そうだったから。……わるい気がした、です」


「?」


「いらないなら売るです。ごまんくらいはします」


「……いや。折角の好意だ。ありがとうスイちゃん」


 何だか分からないが、木の盾を装備していた私は貧弱に見えたのかもしれない。

 これから共にダンジョンに挑む者として、これは彼女なりの激励なのだろう。有難く頂戴する。

 

「じゃ。募集、するですか」


「そうだな」


 辺りはパーティを探している冒険者で溢れている。

 これだけいれば後二人くらいすぐに集まるだろう。さっそく声を掛けていくが――



「パーティ? うわ、20の戦士かよ……パス」


「20と22? 悪いけど寄生は感心しないな」


「なにその武器」



 ……どうやらそう簡単にはいかないようだ。

 特に私たちのレベルが低いのが問題らしい。参加可能レベルは確か20~30だが、寄生か……。


 もちろん精一杯全力を出すつもりでいたが、そう捉えられるのは悲しいものがあるな。しかし、仕方ない事なのかもしれない。


「すまない。私のレベルが低いばかりに」


「おたがいさまです、から」


 そうは言うが、私だけでも諦めれば……。レベル22のスイちゃんなら入れてくれるパーティが見つかるかもしれない。

 意を決して提案しようとしたその時、



【"冷凍ミカン" 様からパーティのお誘いです】


 

 冷凍ミカン――忘れるはずもない。リンフィアの森で出会った、私の初めての友人。


 辺りを見渡すとこちらに手を振る冒険者が見えた。

 白いフードの付いたローブに見覚えのある杖、装いこそ多少違えどミカンさんその人である。



2.ブロンズケイヴ・作戦会議室



 ミカンさんと合流した後、いったん人混みから逃れる為近くにあった仮設テントへと避難した。

 ここなら落ち着いて話せるだろう。

 

「ミカンさん。どうやら立派な魔法使いになれたようだな」


「チキンさんも! 最初見た時誰か分からなかったですよ!」


 お互いに少し成長したというところだろうか。嬉しい気持ちが込み上げてくるが、とりあえず本題に入る。


「しかし、いいのか? 私のような低レベルをパーティに誘って……」


「もちろんです! 誰だって最初は初心者ですから」


 ミカンさんは既にレベル26と上を行く存在だ。


「そちらの方はお友達ですか?」


「スイちゃん。です」


「ああ。彼女もよろしく頼む」


【"猫吸い" がパーティに参加しました】


「よろしくお願いしますね!」


「よろです」


 軽く挨拶をして、二人の顔合わせも済んだようだ。残る一人を探す為にテントを出る。

 ミカンさんが口を開く。


「タンクにヒーラー、サポーターも揃いましたし、アタッカーの方が欲しいですね」


「そんなルールがあるのか?」


「ロール、です。基本的には一人ずつ欲しいですね」


 どうやらパーティを組む際には【ロール】を意識した方が良いらしい。

 何のことかイマイチ掴めない自分に二人は丁寧に解説してくれた。



 ターゲットを引き付けるタンク。

 その隙を付いてダメージを与え、バフを配るサポーター。

 高い火力で敵を殲滅するアタッカー。

 味方全体の体力を回復しながら敵にデバフを撒くヒーラー。



 ……どうやら体力が高く近接戦闘が得意な戦士はタンクにあたるらしい。

 魔法使いのミカンさんがヒーラーで、スイちゃんがサポーター。だから私たちにはアタッカーが必要となる。


 二人のお陰で新たな知識が付いたところで、「とうっ!」何やら聞き覚えるのある声と共に誰かがダンジョン入り口の前に着地した。



「拙者は最強の忍者・海パン侍! 何といってもレベル25でござる!! 最強の拙者がパーティを希望するでござるよ!!!」



 海パン一丁でダンジョンの前に仁王立ちするその姿に、周囲の冒険者たちは皆恐れ慄く。

 私は言った。


「彼を誘ってくれ!」


「あ、あの人を……ですか!?」


「へんたいです」

 

 二人は困惑している。無理もない。私も最初はそうだったからな。

 

「ああ見えて凄腕の忍者なんだ。私に戦い方を教えてくれた恩人でもある」


「そ、そこまで言うなら……分かりました!」


 ミカンさんはそう言うと、海パン侍さんにパーティを飛ばす。


【"海パン侍" がパーティに参加しました】


「よろしくお願いします!」


「よろです」


「よろしく頼むでござるよ! ……おお、其方はあの時の戦士ではござらんか」


「よろしく頼む、海パン侍さん。貴方に教わった戦術、しかと見届けてくれ」


 ……こうしてロールがバランス良く揃ったパーティが完成した。

 私たちのダンジョン攻略は今、ここから始まるのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る