第5話

「めちゃめちゃ美味しかった」


 ついついいつもよりご飯を食べすぎてしまった。


 唐揚げはもちろんのこと、ポテトサラダや味噌汁も美味しく、今まで食べた中で一番かもしれない。


 これは何としてでもヤンデレにさせて今後もずっとご飯を作ってもらわないといけないだろう。


 これからの安泰のために。


「後片付けは私がやっておくから、お二人は部屋で好きなだけエロエロイチャイチャしちゃってくださいな」

「イチャ……エロ……」


 想像したのかその言葉に反応しただけかは分からないが、恥ずかしそうに顔を真っ赤にしてはダメだろう。


 少なくとも人前では恋人同士でなければならないのだから。


「彼氏の家に来たんですからそういうことでしょう? まさか料理をダシにしてお兄ちゃんに彼氏役をお願いしたわけじゃないですよね?」


 明らかに恥ずかしがりすぎているのか、夜空の反応を見たひよりが疑い始めている。


 しかも何故か妙にカンが良い。


「大丈夫だぞ。これからたっぷりとイチャつかせてもらうから」

「あ……」


 ひよりの疑いを無くすために、和樹は恥ずかしがっている夜空の肩に手を置いてから引き寄せる。


 こうやって沢山のイチャイチャで信じさせるしかないだろう。


 彼氏役がなくなってしまえば、夜空をヤンデレにさせる機会が少なくなるから困る。


 何としてもヤンデレにさせて美味しいご飯を食べるのだ。


「てことは今日泊まるってことですね」


 やーん、と嬉しそうにしたひよりは、二人が愛し合ってるシーンを想像したのだろう。


「泊ま……着替えとかないですよ」


 あくまでご飯を作りに来ただけなのか、夜空は泊まるのを想定していなかったようだ。


 そもそも今日この関係になって学校から直接この家に来たため、着替えなど用意しているはずがない。


 今の服で寝てしまうとブレザーやスカートにシワが付いてしまうし、流石に泊まるのは嫌だろう。


「下着はコンビニで買えますし、パジャマは私の使えばいいですよ」

「いやいや、ひよりのパジャマだとサイズ合わないだろ。特に胸が……」

「お兄ちゃん?」

「はい。すいません」


 顔は笑っているが目が笑っていないひよりの迫力に謝るしかなかった。


 高校生にもなって全然成長してないのだから将来は絶望的だろうが、本人からしたら諦めきれないらしい。


「先輩の家に門限あるんですか?」

「いえ、一人暮らしをしているのでないです」


 泊まる気がないなら門限があると言えばいいだけなものの、変なところで正直なようだ。


 彼氏がいると嘘をつくなら他の嘘もつけそうなものだが。


「ならパジャマはお兄ちゃんのシャツを着ればいいですよ。彼シャツが嫌いな男の子はいません」


 一人暮らしをしているのであれば泊まっても親から何か言われることはないだろう。


「諦めろ。てかひよりを信じさせたいなら泊まるしかない」

「ひゃあ……」


 ひよりに聞こえないように耳元で小声にしたためか、囁かれた夜空は変な声を出した。


 どうやら耳が敏感らしい。


「俺のこと信じられるなら大丈夫でしょ?」


 料理だけに興味津々だから信じられる、とスーパーに向かってる時に言っていたため、襲われる心配はしていないはずだ。


 そもそも襲われる心配をしているのなら家にすら来なかっただろう。


 いくら人を見る目があるといってもそこまで信じられるのかは謎だが、恐らくは和樹は本当に料理にしか目がないのを見ているから。


 新学期が始まってから教室でご飯を食べたのだし、その時にもしかしたら本当に美味しそうに食べているのを実際に見たのかもしれない。


「分かり、ました。泊まります、ね」


 泊まるのが嫌というよりかは、恥ずかしすぎるといった感じの話し方だ。


 ひよりを信じさせるのは泊まるのが一番だと思ったのだろう。


「これでやっとお兄ちゃんも大人の階段登れるね」


 親指を立ててそういうことを言うのは止めてほしい。


「その台詞だと既にひよりが大人の階段登ってるように聞こえるけど彼氏いないでしょ?」

「私は彼氏を作らないんじゃなくて作る気ないだけでーす」


 壊滅的なほどに胸は小さいが、美少女だから告白くらいはされたことがあるだろう。


 あえて彼氏を作らないらしい。


 女の子は恋バナとか聞くのがかなり好きみたいだし、自分が恋愛をするより惚気を見たり聞きたいのだろう。


「泊まるって決まったわけですし、お兄ちゃんたちはコンビニで下着買ってきなよ」

「二人で、ですか?」

「はい。どうせこの後に下着どころか裸見られたり触られたらするんですからいいじゃないですか」


 どうやらひよりはどうしても和樹と夜空の初体験を済まさせたいらしい。


 彼女が彼氏の家に来たとなれば普通なら自然な流れだろう。


「ひよりは早く片付けろ。俺らはコンビニ行くから」


 恥ずかしそうにしてる夜空の手を取ってコンビニへと向かった。

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