第3話

「キッチンや冷蔵庫を確認させてもらいましたけど、まさかほとんど食材がないとは思いませんでした」


 先ほど和樹の家のキッチンや冷蔵庫を見た夜空は、あまりのも食材の無さにため息を吐いた。


 なので今から近場のスーパーに行って買い物をしなければならない。


「今日から親が長めの旅行に行くからね」


 兄妹揃って料理が出来ないのだし、食材があっても意味をなさないのだ。


 だから母親が昨日の内にほぼ食材を空にしたのを和樹は完全に忘れていた。


「それなら家に着く前に言って欲しかったです」

「面目ない」


 食材が家になかったのを忘れていたこちらのミスのため、言い訳など出来ない。


 和樹自身、夜空に告白する前はしばらくお弁当のみ作ってきてもらおうと思っていたし、夜は出前や外食中心と考えていたから冷蔵庫の中身なんてどうでもいいと思っていた。


 早速夕飯を作ってくれるため、和樹の内心はいつもよりテンションが高い。


 実際にまだ食べたことないからどんな味付けになるか分からないが、お互いにメリットがあると言っていたから自信はあるのだろう。


 今から楽しみだ。


「ところでさ、手を繋ぐ必要ある?」


 スーパーに向かっている真っ最中なのだが、何故か夜空が指を絡め合う恋人繋ぎをしてくる。


「私に彼氏がいると思わせないといけないので、こうしてるだけですよ」


 少しクールな話し方をしているものの、恥ずかしいのか少し顔が赤い。


 確かにまだ日がくれていないし、家が学校から近いから同じ学校に通っている誰かに合う可能性がある。


 告白を減らすには彼氏がいると周りに認知させないといけないため、外にいる間はこうして手を繋ぐことにしたのだろう。


 誰が聞いているか分からないから耳元で小声で言ってくるから耳がくすぐったい。


「ちなみにアレルギーはないですよね?」

「大丈夫だよ」


 アレルギーがあっては色々な物を食べれない可能性があるため、なくて本当に良かったと心から思った。


「私の料理がもし美味しくないって思ったら彼氏役断られてしまいますし、今日はカズくんの好きなの作りますよ」

「それは有難いけど、何で料理作ってくれるの? 自分で言うのもなんだけど、俺は変人だと思っているから。いくらメリットがあるとはいってもヤンデレになってくれって言う人の言葉を信じるの?」


 自身でも自分勝手だと思っているし、メリットがあっても未だに不思議でしょうがない。


 騙して襲いかかろうとしてもおかしくないのだから。


「私、人を見る目はあるんですよ。カズくんは料理にだけ興味津々って感じがして逆に信じられます」


 異性として見ていないからこそ、襲われることがないと信じて料理を作ってくれるようだ。


 ヤンデレになってくれるかまでは分からないものの、少なくともしばらくは美味しい料理を味わうことが出来る。


 本当であれば生涯にわたって作ってほしいが。


「ご飯は食べないと生きていけないが、エロいことはしなくても生きていける。美味しい料理こそ正義」


 どれだけ美味しい料理を食べたいか、と夜空に熱弁する。


 確かに性欲も人間の三代欲求だし、子孫を残すうえで大切なことかもしれないが、身体を作っているのは食事と適度な運動と睡眠だ。


 性欲は将来本当に彼女が出来たらぶつければいい。


「本当変わった性格してますね。私にとっては非常に有難いことですが」


 ふふふ、と笑みを浮かべた夜空は、本当に信用してくれているようだ。


 もしかしたら以前から彼氏役になってくれる人を探しており、色んな人の言動を観察していたかもしれない。


 それでたまたまヤンデレなってくれと告白してきた和樹に目を付けたのだろう。


「俺も有難いね。ご飯作ってくれるし、一緒にいれる機会が増えるからヤンデレにさせやすくなる」

「ヤンデレって私にとってあまり良いイメージがないんですけど……」


 自分がヤンデレになる未来が見えないらしいく、しかも悪いイメージすらあるようだ。


「一般の人はヤンデレとメンヘラの違いが分からないか」

「まるでカズくんが一般人じゃない言い方ですけど、違いはなんですか?」

「よくぞ聞いてくれた。メンヘラは自分中心で自分を好きになってくれるなら比較的誰でも良いって思ってるし、かまってくれなきゃすぐ浮気する。でも、ヤンデレは好きな人中心で好きな人のためなら何でも尽くしてくれる。つまりは美味しいご飯がずっと食べられる」


 何よりも優先すべきことは美味しいご飯をずっと食べることだ。


 もちろんヤンデレにもデメリットがあり、他の女が好きな人に近づこうとすればどんな手を使ってでも排除しようとする。


 でも、女っ気のない和樹にそんな心配は無用だ。


「ご飯目的でヤンデレにさせようとする人なんて他にいないでしょうね」

「それとも俺も他の人と同じように告白した方が良かった?」

「いえ。見た目だけで告白されても困りますし、ちゃんと心から愛し合ってから色々としたいと思っているので」


 あくまで今は彼氏がいらないだけで、その内作る可能性はあるらしい。


「誰が好きな人作られたら困るね。てことで俺はずっと夜空の側にいることにする」

「もう……独占欲強い彼氏みたいですね」

「ずっと美味しいご飯を食べれるためなら独占欲も強くなる」


 そんな話をしていたら丁度スーパーに着いたため、名前で呼ばれたのと独占されることを想像したっぽい頬を赤く染めた夜空と共に店に入った。

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