第2話

「俺の家か」


 学校から手を連れられて来た場所は自分の家だ。


 早速手を繋いできたのは周りから彼氏がいると思わせるためだと帰っている時に耳元で小声で言われた。


 他の人に聞こえないためだろうが、女の子に耳元で囁かれたのは初めてだったからかなり緊張してしまった。


 自分の家に来たから手を連れられてというより案内したというのが正しいが。


「流石に私の家はまだ恥ずかしいです」


 頬を赤く染めた夜空は、異性と触れ合うのにそこまで慣れていないらしい。


 帰っている途中も赤くしてたため、今まで誰かと付き合ったことはないのだろう。


 仲良くもない異性を自分の家に入れるほど安い女ではないようだ。


「ただいまー」


 玄関を開けて自分の家に入る。


 五階建ての家族向けマンションで間取りは4LDKという普通の分譲マンションだ。


 鍵が空いているということは、既に妹が帰って来ているのだらう。


 両親は有給を使って今朝から温泉旅行に行ったため、家にいるのは妹しか考えられない。


 結婚当初は忙しくて行けなかった新婚旅行も兼ねているようだ。


「お兄ちゃん、おかえ、り……」


 学生服から部屋着に着替えてリビングに向かう途中だったのか、ちょうど会った一つ下である妹のひよりがこちらを見て固まった。


 同じ高校に通っているから登校は一緒だが、各々の予定があったりするから下校は別だったりする。


 片耳だけにかけた黒でボブのストレートヘアー、茶色の大きな瞳、乳白色の綺麗な肌にスレンダーだから美少女だろう。


 部屋着は水色のパーカーにショーパンというラフな格好だ。


「お兄ちゃんが、可愛い女の子を連れて来た……しかも仲良く手を繋いで……」


 驚いている理由は兄の和樹が可愛い女の子を連れて来たかららしい。


 今まで女っ気がなかったから驚くのは仕方ないだろう。


「しかも相手はあの星野宮先輩。私のクラスでも二年生でめちゃくちゃ可愛い子がいるって噂になってる」

「カズくんの妹さんですか? 私の名前は知ってるみたいですが、自己紹介させてください。カズくんの彼女の星野宮夜空です。よろしくお願いします」


 歳下相手にも丁寧な自己紹介をした。


 先ほどまで井上くんと言っていたのに愛称で呼んできたのは、ひよりにも彼氏役というのは内緒にしてほしいからなようだ。


 一人でも知っている人がいるとひょんなことから周りにバレてしまう可能性があるため、絶対に内緒だという警告かもしれない。


 つまりは和樹は彼女のことを夜空って言わないといけないわけだ。


「ご丁寧にどうも。私は妹のひよりです。よろしくお願いします」


 普段から気軽に接するタイプのひよりが緊張した様子なのは、夜空の美しさに当てられてしまったからだろう。


「今日は料理作ってくれるというから連れて来た。母さんたちいないし丁度いいでしょ?」

「私たちは料理出来ないから有難いけど……お兄ちゃんが星野宮先輩と付き合ってるのが不思議過ぎる」


 母親は料理が出来るが、その子供である和樹やひよりは料理が壊滅的と言っても過言じゃないくらいに下手だ。


 だから両親が家にいない間は出前や惣菜になるだろうと思っていた。


「先輩、お兄ちゃんに何か弱味を握られてませんか?」

「そんなことないですよ。カズくんはとっても良い人です」


 笑顔で答えた夜空は、今も恥ずかしいのを我慢しているだろう。


 少しだったら付き合い始めと言い訳出来るが、凄い恥ずかしがっていたらバレる可能性があるのだから。


「なら、お兄ちゃんが先輩に貢いでいる?」

「兄に対して失礼すぎるだろ」

「だってモブっぽい見た目のお兄ちゃんがヒロインの星野宮先輩と付き合えるなんて信じられないよ」


 確かにひよりの言うことも一理あるかもしれない。


 決してイケメンではないため、可愛すぎる夜空を彼女に出来たなんてすぐに信じられるわけないだろう。


 和樹だけが言ってるだけなら完全に信じていなかったかもだが、夜空本人が言ってるから困惑してる様子だ。


 お互いにメリットがあるからこそこういう状態になっているだけであり、弱味を握っていたり貢いでいるわけではない。


(あれ? これって星野宮の料理が美味しくなくても彼氏役しないといけないパターンでは?)


 既に帰りに学校の人たちには見られてしまっているし、さらにはひよりに彼女だと言ってしまっている。


 本人の様子からしたら不味いということはないだろうが、これで好みの味じゃなかったら嫌だ。


「私たちラブラブ、ですので」


 手を繋いでいるだけでは信じていないひよりを信じさせるためなのか、夜空が和樹の腕に抱きついてきた。


 頬を赤くしてまで抱きついてきたのは、恥ずかしくても信じてほしいからだろう。


「流石にここまでしてくれたら信じるしかないですかね」


 どうやら信じてくれたようだ。


「それじゃあ案内するよ」


 これから料理をしてくれる夜空をキッチンまで案内した。

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