料理上手な学校一の美少女をヤンデレにさせれば一生安泰
しゆの
第1話
「俺の安泰のためにヤンデレになってくれ」
高校に入学して二度目の風が心地よい春、
彼女ーー
腰まで伸びたサラサラな青みがかった黒髪、長いまつ毛に包まれた藍色の大きな瞳は宝石のように綺麗だし、シミ一つ見られないスベスベな白い肌、手足や腰などは細いのに服の上からでも分かる平均以上な胸という見た目だけでなく、当たり障りのない性格や丁寧な物腰、学年屈指の学力など、学校一の美少女と言われるに相応しいだろう。
「はあ……こんな告白されたのは初めてですよ」
本当にされたのは初めてなのか、明らかに戸惑ったような表情をしている。
いくら学校一の美少女と言われていようとも、呼び出されていきなりヤンデレになってくれと告白されるなんてほぼないだろう。
でも、ヤンデレになってくれと言ったのには、見た目や性格などとは別に理由があるのだ。
「何でこんなこと言ったのか不思議?」
「はい。普通は『好きです。付き合ってください』だと思いますよ」
確かに男子が女子にする一般的な告白はそうだろう。
「昨日クラスメイトの女子たちと話してたでしょ? その時にお弁当が美味しいって言われていた」
昨日クラスメイトの友達とお弁当のおかずを交換していた夜空は、クラスメイトからそんなことを言われていたのだ。
しかも本人が毎日使っているとも。
「そうですね。それがどうかしました?」
ヤンデレというのとお弁当が美味しい、というのが何の共通点があるか分からないのだろう。
「俺はずっと美味しい料理を食べたいって思っているんだよ」
「誰だって不味いより美味しい料理を食べたいものですよね」
食は人間の三大欲求でもあるし、長い人生で食事を楽しまないのは損と言える。
楽しみだと言っても太っているわけでもなく、ちゃんと体重などには気を付けているが。
「料理が得意な人がヤンデレになってくれればずっと美味しい料理を食べれると思わないか?」
ヤンデレになってくれと言った一番の理由だ。
外食をすれば気軽に美味しい料理を楽しめるし、母親が料理をするからもちろん毎日食べれるが、親は子より普通早くなくなってしまう。
そして高校生でバイトをしてないから毎日外食なんて出来るわけがない。
お小遣いが毎月決まっているのだから。
「だから料理上手な女の子をヤンデレにさせてずっと美味しいご飯を食べたい」
ヤンデレというのは好きな人中心であり、ご飯が食べたいと言えば喜んで作ってくれるだろう。
もちろんヤンデレにさせることだってデメリットはある。
好きな人中心になってしまうため、ベタ惚れにさせなければならないというのが一番の難関が。
ただ、ヤンデレにさせて惚れさせてしまえばこちらもものだ。
沢山美味しいご飯を食べられるし、沢山尽くしてくれるのだから。
「そんな理由で告白してきた人は井上くんが初めてですよ」
呆れを通り越して逆に尊敬しますね、と思っていそうな瞳がこちらに向けられる。
今年からクラスメイトになったのに名前は覚えてくれているらしい。
「でも、それはそれで良いかもしれませんね……」
口元に指を当てた夜空が何か小声で呟いている。
「ヤンデレになるかどうかは分かりませんが、ご飯を作ってあげても構いませんよ」
「本当に?」
「はい。でも、一つ条件があります」
右手の人差し指を立てた夜空は、何か考えがあって了承したようだ。
ヤンデレになっていない、さらには惚れられているわけでもないし、向こうにも何かしらのメリットがなければ承諾しないだろう。
「条件?」
「はい。私の彼氏役になってください」
「何故に?」
何で彼氏役にならないといけないんだ? と思いながら夜空を見つめる。
「今は誰とも付き合う気はないので告白を断るしかないんですよ。俺が付き合ってやるよとか、身体目的っぽい人は正直断るのに何とも思わないんですが。私に彼氏が出来たと思わせれば告白する人は減ると思いますし」
つまりはラノベなどで良くある展開をしようと言うわけだ。
確かに好きじゃない人から告白されても断るしかないだろうし、彼氏役を作るのが夜空にとってのメリットなのだろう。
彼氏がいる人に告白するなんて答えが分かり切っているのだから。
「井上くんは美味しいご飯を食べたいだけで私のことを好きとか性的な目で見てるわけではないのでしょう?」
「そうだね。ヤンデレにさせたいから本当に嫌なことはする気ない」
ヤンデレにさせる前に嫌われたら元も子もない。
「だったら彼氏役にピッタリじゃないですか。お互いにメリットがあります」
和樹は美味しいご飯を食べることが出来る、夜空は告白されるのを減らせる、というのがメリットだ。
今は誰とも付き合う気はないというのは、見た目だけでよって来る人が多くて内心うんざりしているのかもしれない。
美女と野獣、と言われそうなカップルが現実にいるのだし、女性は男性より内面を好きになる傾向があるのだろう。
見た目だけじゃなくてない内面もしっかりと見てくれる人じゃないと嫌だ、と思っているのかもしれない。
タイツを履いているのは視線が気になるからだろう。
ずっと美味しいご飯を食べたいからという理由でヤンデレになってくれ、と言ったのが内面を見ているか分からないが、少なくとも見た目だけでよって来る人よりかは好意を持たれたようだ。
「井上くんにメリットがあると思わせるには私が美味しいご飯を作れるとしっかりと証明しないといけないですね。家で作ってあげますので行きましょう」
「え? 今から?」
はい、と頷いた夜空に手を繋がれて屋上を後にした。
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