第2話

 そうして、私は戻ってきたのだ。

 にわかに信じられない。

 でも、布団の柄も、部屋のにおいも、何もかも、さっきまでと違う。日差しが明るく、目を心地よく刺激する。

 雀の鳴く声が驚くほど、クリアーに響いた。


「やった……! やった、やったやった……!」


 私は大きく伸びをした。腕が天井に届きそうなほど、よく体がのびた。


「やあ」

「さっそく、満喫しているね」

「!」


 壁から、ふわりと彼が抜け出てきた。私はそれに驚く。――ああ、何と、健康に心臓が鳴ることだろう!


「ありがとう!」

「いいえ。喜ぶのは、まだ早いよ」

「あっ」

「これから、君はやり直すんだから」


 その通りだ。身が引き締まる心地になる。

 真剣な気持ちに変わったのを見て、彼はふと笑った。


「大丈夫。君ならできるよ」

「ありがとう!」


 親しみのある笑みを向けられ、私はとても心強くなる。


「じゃあ、たのしい生を。」

「うん!」


 彼は、ふっと、壁の向こうに消え――そうになる瞬間、私の方を振り返った。


「忘れてた」

「君の魂は、あのころのままだよ。そこはわかってるね」

「うん!」


 だからこそ、私はやり直せるのだ。ちゃんと、わかっている。私は彼に頷いた。


「それならよかった。じゃあ、またね」


 彼は今度こそ消えた。

 私は、壁に向かって、笑みを向ける。何もなくても、嬉しい気持ちがわいてくる。よどんだ気持ちはどこにもなかった。

 不思議だ――でも、これが今の私なんだ。

 私は制服に着替えて、部屋の外に出た。

 私は新しい気持ちなのに、制服はやわらかに湿っているのが、おかしかった。

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