第5話


「してジアンよ、俺たちは何をするのだ」

 

 夜明け前、エルガはジアンに尋ねた。エルガは眠り、ジアンは準備に勤しみ、結局話すのは向かいながらであった。

 

「これは、ミル・リ・ムにございます」

「ミル・リ・ム?」

 

 エルガは首をかしげる。

 

「亡者の夢にございます」

「ふむ。それがどうしたのだ?」

「ここは太古にほろんだ、ハバルという国の跡地にございます」

「なんと」

「ハバルの国の……あるもの・・・・の未練が、この地の次元をゆがめ、迷いこませているのです」

「未練か……して、あるものとは誰だ?」

「私が先に会っていたものです」

 

 ジアンは言葉をきり、空を見上げた。

 何の変哲もない空間……しかし、感じた。時空の歪の核が――。

 

「――じき会えましょう」

 

 

 瞬間、空間がうなった。時空のうめきだ。耳の奥を揺らす様な、感覚が襲う。視界が怪しき色に染まる。

 ジアンはエルガと離れぬよう、後ろ手に体をかばった。エルガは、しばし目を見張ったが、匂いたつ魔生の気配に、闘気を鋭く研ぎ澄ました。

 時空のはざまのうねりが消える。

 

「城……?」

 

 エルガのつぶやきが空に昇る。

 眼前には、城がそびえたっていた。それは、発見ではない。存在すら感じさせず――ずっとそこに在った――そのことに、こちらが気付いたというのが正しいだろう。

 

「ここが、彼奴の呪の本拠にございます」

「何と……」

 

 エルガが一歩歩み出た。

 

「立派なものだな」

 

 エルガは嘆息した。しかし、隙は一切にない。ジアンは愉快になる。

 頼もしくて何より――何よりだ。

 

「やあやあ、ハバルのものよ」

 

 エルガは颯爽と進み出て、槍を地につき、声をはった。

 

「われこそはエルガ・ドルミール! 誇り高きハバルのものよ、いざ相まみえん!」

 

 ろうろうと澄み切った声で、言い放った。遠く城の向こうまで通り抜けた気配だった。

 シン……と辺りは静まり返っている。

 エルガは「む?」と首をかしげた。

 

「誰ぞおらぬのか?」

 

 抑えきれず、ジアンは笑った。腹を抱えるのを、どうにか耐えた。非常時である。

 

「おそらく、招いているのでしょう」

 

 口元を押さえながら、ジアンは進言した。引き込むような、魔の気配が城から溢れている。エルガは得心がいったようで、更に前に進んだ。

 

「主、お気をつけて」

「大事ない。招いているならば、応えねばな」

 

 頼もしいエルガの言葉の傍ら、ジアンは改めて魔生の気配を探った。見え透いた外囲は見えない。しかし油断はできない……――が、今ここで二手に分かれるほうが危険と判断した。

 ジアンは待たず、主についていくことにした。

 ここを進まねば、ここからは逃れられぬ。それを理解しているならば、進み、打ち倒すのみだ。

 

(主は、必ず私が守る)

 

 エルガとジアンは、場内へ進んだ。がらんどうの大広間は、耳が痛くなるほどの静けさだった。

 ――そして。

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