第4話

 砂が舞う。風が吹いたのだ。

 ジアンは、目の前の老女を見つめた。すべての話が終わり、黙り込んだ老女は、微動だにせず……火を眺めていた。

 まるで、人形のように。

 

「何故、召使は、王女を殺したのでしょう」

 

 老女がゆらめいた――そう、ジアンは思ったが、実際には老女は微動だにしなかった。ただ、大きな火の揺らめきが、そう思わせただけであった。

 

「何故……何故……」

 

 老女はぶつぶつとつぶやいた。

 

「私にしかできないことだったから……」

 

 老女の声は、歯車の軋みに似ていた。

 風が吹く。また吹く。砂が舞う……。

 

「あなたは……」

 

 ジアンの言葉が、最後まで紡がれるより先に、老女は笑んだ。その場にそぐわない、意図の含まない――子供の様な笑みだった。

 

 視界が大きく揺れ、目の前の火が消えた。

 同時に、辺りが常世の闇に染まる。

 見渡せば、もう老女の姿はどこにもなかった。


 

「おうい、おうい」

 

 闇の向こうから、ろうろうと響く声が近づいてくる。ジアンは即座に立ち上がり、彼のもとへ向かった。

 

「主」

「ジアン、大事ないか」

 

 槍を肩に叩きながら、エルガは言った。ジアンは、若い主の顔をじっと見つめた。

 ――主だ。間違えようもない。

 

「おそばを離れ、申し訳ありません」

「何。俺も今起きた所だ」

 

 エルガは大笑した。

 

「お前がおらぬと思っておったら、いきなり現れたのでな」

「現れた……?」

「うむ」

 

 頷くエルガの肩の向こうに、焚火が見えた。あれは、自分が炊いたものだ。闇夜に明るく浮かんでいる。

 エルガの言葉と、先までのことを思い浮かべ、あてはめ……ジアンは振り返った。

 老女と自分がいた所を。

 ――鍵は開けた。

 

「主、ここを出る方法がわかりました」

「何と、まことかジアン!」

「夜明け前に、再びこの場へ参りましょう」

 

 時間とすれば、あと二刻といったところ……それまでに打てる手は打つ。

 

「わかった」

 

 エルガは迷いなく頷いた。槍をぶんと振り回すと、両肩にかつぎ、体をそらした。

 

「動き足りないと思っておった!」

「これは頼もしい」

「ははは!」

 

 エルガの闊達な笑い声を聞きながら、二人は自分たちの焚火のもとへ戻った。

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