第3話
風が吹く。砂を巻き込んだ、強い風が、老女の姿をかき消した。
ジアンは目を眇め、風の通り過ぎるを待った。
再び静かになった時、老女は微笑した。
「王女には、召使がいました。父君の遺していったものです。気味が悪くとも、思う心はあったのでしょう」
「お前は、私とおそろいで変ね」
そう言って、王女は召使の胸を指すのがくせだった。
召使は砂時計を持っていなかった。だから、王女と同じく年をとらず、永久に生き続けることが、叶った。
「私を見て、私を」
「私は、永劫おそばにおります」
二人は互いを慈しみ、守りあった。そうするしか、互いに己を愛する手立てがなかったのだ。
幾十年過ぎ……周囲の人間の顔ぶれが、変わり続ける中……二人は老いず、生き続けた。
「エリックはもうおわりね」
王女は死ぬ間際の人間を、見分けることができた、もう砂時計を見なくとも……。
「みんな、皆、私達を置いて行ってしまう」
「どうして人間はもろいのかしら?」
王女の目は、暗く、冷たくなっていった。
「王女の言葉に、
カチ、カチ……硬質な音が、辺りに響いていた。
何の音であろう。ジアンは頭の片隅で思った。
「百年過ぎた頃……ついに、均衡が崩れ……国に反乱が起きました。」
老女はジアンの顔を、瞬きもせず見つめた。一切、乾いていない目で。
「疫病に次ぐ、戦禍が発端となりました
「王女を殺せ!」
「ハバルの神に逆らう王女を殺し、怒りを鎮めよ!」
城の外に、兵士、民衆――国中のものが押し寄せた。
王女は、それを見下ろしても、もう何も思わなかった。
王女は、大階段にて、短剣で喉をついた。
「王女様」
発見したのは召使だった。王女を抱き起し、傷に手を添える。
しかし、それより早く、王女の傷はもうふさがっていた。
王女の固く閉じられた目は、再び開いた――時計が逆さに回るように。
王女は呆然と空を見つめていった。もう、召使の姿さえ見えなかった。
「殺しておくれ」
たった一言だった。
「お願いだから、もう殺しておくれ、
王女の目には、涙さえ浮かばなかった。
召使は、そんな王女の胸に、そっと手を伸ばし――
「王女の砂時計を、元に戻しました。」
茫洋と、老女は続ける。
「王女はたちまち年を取り、砂のように崩れ落ちました。風が――」
風が立つ、砂を巻き込んだ風が――
「辺りに散りゆく、王女のもとに、風が吹きすさび、王女を巻き込み、飛んでいきました。あたりに残る、風と砂と――王女の余韻を受けながら、召使はひざまずき、たたずんでいました。
民衆達が場内になだれこみ、打ち壊されるまで、ずっと、王女のいたところに向かい――跪いていた。
「王女はどこだ!」
民衆達は狂ったように召使を壊した。召使だった破片が、部屋中に飛び散った。
無数の歯車が、召使の目に映った。
「そこで、召使は、自分は人間ではなかったことに、気付いたのです。」
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