第3話

また、この曲を聴いてしまった。

ああまた染められる、きっと前よりも深く、自分の創作に潜り込まれてしまう。

心に濃い後悔が一つ生まれた。

だが、この後悔は生まれた側から曲に流されてしまった。

素晴らしい曲を作るから、その素晴らしい曲に自分の創作を全て上塗りされてしまったから避けていたのに。 

「自分が最初に使うんだ」と息巻くほどに自信のあった言葉や表現が歌詞の一文だと知った時の落胆、意欲の霧散、放棄。

もし、自分が書いた作品に偶然、曲や作者を彷彿とさせる文章が入っていて、それを誰かに「猿真似だ」「贋作だ」などと貶され、自分だけに留まらず作者にも火の粉が飛んでしまったら。

この二つが怖いから、聴くのを辞めたはずだったのに。

今の頭には「そんな事は関係ない」という思いしかない。

曲を止める事ができない。

指は動かず、頭は背もたれにその重さを委ねてしまっている。

耳から音が深く染み込み、頭の真ん中が少し震えた。

この曲は、嗜好品だったんだ。

だが自分は、この曲を嗜む程度には聴けなくなってしまった。

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