第0.2話 2人目の異国人

 最初の異国人サブロウがこの世を去ってから70年程して2人目の異国人がエルトニア王国に現れた。見た事のないツバ広の帽子を被り、青の上下の服を着て、靴は黒のブーツのような形。この男は王都近くの畑に現われ、畑の作物を見ながらブツブツと独り言を話していた。

 不審な男に衛兵が近づき、声を掛けました。

「そこで何をしている!」

「何って・・・畑の作物を見てるんだ」

 その男は衛兵に顔を向けた。王国人とは違う顏の造りで黒い目をしていた。衛兵は衛士長より言われていた異国人の話を思い出した。『我々とは体格も顔の作りも目も違う人が、たまに現われることがある。現われた場合は、速やかに王城へ報告せよ』と。

何処どこからこの国に入った?」

「何処って。目が覚めたらここだった」

「・・・少し話を聞きたいので、こちらに来てもらえるか」

 衛兵は男を連れ、門をくぐり、途中ですれ違った兵士に何か言付けをし、休憩所脇にある部屋に案内した。中には1組の机と椅子、窓があるだけの簡素な部屋だった。

「ここに座って待っていてくれ。今、係の者を呼びに行っている。外に居るから何かあったら声を掛けてくれ」

 衛兵は男にそう言い残し部屋を出て行った。部屋に取り残された男は椅子に座り、ポケットからタバコを取り出し100円ライターで火を着け、一服し始めた。

 30分ぐらいした頃、2人の男が入ってきた。1人は40歳ぐらいで椅子に座り、もう1人は若く、20歳ぐらいで後に立っていた。

「初めまして。私はハインツ。こちらはゲルドアです。お名前を窺っても?」

「ワシは・・・イチ」

 イチの本名は『ハジメ』だが、何故だか違う名前を言ってしまう。

「お住まいは何処ですか?」

「ニホンの〇〇県なんじゃが、この辺には無いんじゃろ?」

「はい。ありません」

「だよな。作物も違うし、あんたらの見た目も外人だもんなぁ。ワシは何時いつ外国に来たんじゃろ?」

 イチは突然違う国に来たことを訝しがった。

「何故来られたのかは分かりませんが、我が王国には以前にも貴方様に似た方が来られております。その方は剣術を得意としておられたようです。貴方様は何がお得意ですか?」

「前にも来ている奴がいるのか。剣術?ワシは農業しか知らん」

「農業ですか。我が王国の農業をどう思いますか?」

「あぁ、ここに来る前に畑を見たが・・・簡単に言うと雑だ。あれでは育ちが悪いだろ。収量と世話する手間を考えると、もう少し工夫が必要だ。それに何を主食にしているか分からんが、もう少し種類が欲しいとこだな」

 イチは先ほど見た畑の状態を素直に話した。

「そこまで分かりますか・・・。毎年、収量がバラバラで天候次第かと思っていましたが・・・」

「まぁ、天気も影響するが、育て方だろうな」

「そうですか。では貴方に王国内で農業を指導していただきたいのですが、よろしいですか」

「いやいや、ワシは二ホンへ帰るぞ」

 イチは帰ると駄々を捏ねた。

「この辺にニホンはありませんし、以前の方もこちらでお亡くなりになっております。帰るの無理かと思います」

 ハインツはイチに帰るのは無理だとハッキリと告げた。

「・・・」

「貴方は王国内で農業指導するお仕事をしてください。王国は貴方の衣食住と保護、護衛を担当します。直ぐには答えが出ないでしょうから、これからお屋敷にご案内いたしますので、暫くお休み頂いて答えを出してください」

 イチ、ハインツ、ゲルドアの3人は部屋を出て馬車に乗り、王城近くにある屋敷に向かった。


 イチは王国内で農業指導を始めた。補佐兼護衛としてゲルドアが付き添い、王国内の畑を回り、逐一、育て方や作物の管理、水やり、収穫を指導して行った。イチの指導の結果、王国内の収量は安定した。王国南部では長粒種の米を作っていたが、イチの指導で収量が上がった、

 また、イチは原種に近い作物を使い、交配を繰り返し、食べやすい作物への品種改良も行っていった。

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