第15話 自家製トウフ

 私が王城に報告に行っている間に、タバタ様は執事のフランツを連れて市場に買い出しに行っていたようです。何を買われてきたのかと言えば、大豆と大きめのおけ、何に使うのか分からない穴の空いた四角い箱、麻とは少し違うような布を買われたようです。

 タバタ様は厨房に入り、料理人と作業しています。大きめの桶に水を張り、洗った大豆を漬けています。1日置いて水が浸み込んだら、潰して、煮るそうです。話を聞いただけでは分かりませんので、明日、手順を見ましょう。


 1日水の漬けた大豆は、水分を吸って少し大きくなっているようです。桶からザルに空け、水気を切ります。次に鍋に移して水を加え、細かく潰すそうです。かなり重労働です。簡単に潰せる魔道具は無いのでしょうか。数人で交代しながら作業しました。

 出来上がったものを火の魔道具に掛け煮ます。少し冷ましたら、桶に麻とは違う布を敷き、先ほどの大豆汁をしていきます。漉した汁を『トウニュウ』、布に残ったものを『オカラ』と言うそうです。トウニュウを火の魔道具に掛け、煮ていきます。そして、先日の苦い液体『ニガリ』を入れ、静かにかき混ぜると、何と、トウニュウが固まってきました。固まってきた物を四角い箱に布を敷いて入れていきます。そして上に重しを乗せると箱から水が出てきました。

 重しを除け、水の入った桶に箱の中身を取り出しました。白いフニュフニュの物が浮いています。タバタ様が水の中の白いものを包丁で切り分けました。切り分けたものを皿に移し、木サジを皆に配りました。白いものを口に入れると、フワッとした大豆の香りがする不思議な食感。これが先日、仰っていた『トウフ』なる食べ物だそうです。ニガリの苦い味がしないのですが、アレは何処に行ったのでしょうか。

 先日のドミニオンの村で頂いた来た『ムギミソ』を少量、トウフに付けました。なんと、淡泊だったトウフの味が濃厚に変わります。これは不思議です。


 この感じは王都でも売れると思います。今回は試作なので良いのですが、販売する為に大量に大豆を加工するのに手間が掛かりすぎるので、加工する魔道具を準備する必要がありそうです。

 タバタ様のお国には潰す道具があったそうです。大きな桶に大豆を入れると、上下2枚の石が動く部分で大豆を磨り潰し、下に設置した桶に出てくるそうです。魔道具士と相談して早速、試作品の製作に取り掛かるようにしなければいけません。

 それと宰相に味見をしていただくのに王城へ持っていきますので、全部は食べないでくださいね。


 宰相のトウフの試食と相談で、2日ぶりに王城へやってまいりました。

「これがトウフなる食べ物なのか?」

「はい。タバタ様が大豆から作られたものです。大豆を潰して、ドミニオン領で塩を作った際に出来た『ニガリ』と言うものを入れて固めたものになります」

 宰相は私の説明を聞きつつ、木サジでトウフを口に運びました。目を見開き驚いているようです。口に入れた時の大豆の香りですね。

「上手いな」

「はい。『ムギミソ』を少量、付けても美味しいかと思います。トウフを王都で売り出そうかと思うのですが、いかがでしょうか。専用の工房と店舗、製作する料理人、加工する魔道具など必要になります」

「許可しよう。麻と同じで大豆も栽培地を増やす必要があるのか?」

「売れ行き次第となりますが、大豆は他にも使い道がありますので、栽培地は多い方が良いかと思います」

 宰相の許可が降りました。『販売する』という方向性は決まりました。後は専用の工房と店舗が出来るのを待ち、熟練の職人を育て、そうそう、魔道具も作って頂かないと。年甲斐もなく私はワクワクしています。

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