第13話 麻と紙

 本日は麻の工房を訪問しました。この工房では麻布ですが、別の工房では麻の実からインクの原料になる油を作っています。麻は良く出来た植物ですね。この工房は領都から少し離れた川の近くにあります。麻を加工するのに水が大量に必要となるので、川の近くに作られたようです。また、この川の川下には村や農地はありません。有害なものを直接、川に流す訳ではありませんが、川下の住民は良い気持ちはしないだろうとの領主の配慮からです。


 麻の繊維は、茎を叩き、柔らかくして煮て、水にさらし、叩き、を繰り返して、繊維だけを取り出してから布に加工します。紙は途中までは布と同じように麻の繊維を叩き柔らかくしますが、その後、煮て、粉砕して細かくして、水にさらし、ゴミを取り除き、粉砕してを繰り返し、麻を細かくしていきます。そして、大きなおけに水と細かくなった麻を入れ攪拌かくはんし、木枠に張られた麻糸でくって均等になるように繊維を均します。均等になった繊維を板上に破かないように取り出し陰干しして水分を抜いていきます。水分が抜けると紙になります。

 タバタ様が実演されました。最初は上手くいきませんでしたが、数回、練習すると紙っぽい感じになってきます。厚さが厚かったり薄かったりしますが、タバタ様が言われるには、『最初はこんな感じで、熟練すれば均一になる』ようです。数枚、実演し乾燥させました。

 紙が出来ましたので、ペンで書いてみます。少し引っかかりがありますが悪くありません。後は熟練工になるのを待つばかりで、今後が楽しみになります。

 紙を梳く道具は、1台だけ設置して実演しました。今後、規模が大きくなることを考慮すると繊維工房と同じ場所なのは問題がありますので、繊維工房と同じように川の近くに新しく工房を作るようにしました。紙の材料になる麻を加工する所、紙に梳く所、乾燥させる所、保管する所、それと作業員の休憩所を作る計画にしました。紙を梳く機械は6台にして、加工するところを3つぐらいの規模にして・・・結構、大きな工房になります。

 良いものが作れるようになれば需要はあると思いますので、この規模を元にして他の場所にも作るようになると思います。おっと、そうなると材料の麻が足りなくなるのかな。麻の栽培地も増やさないといけませんね。宰相と相談してから領主へ要請ですね。忙しくなります。


 今回の見学はこれで終わりです。タバタ様の知識や色んな発見があり、有意義な見学だったと思います。

「ねぇ、ブルーノさん。この南部領で農作業して住みたいんだけど、どうだろうね?」

「領土を持つという事でしょうか?」

「あぁ・・・。そういう大げさな事じゃなくてね。小さな田んぼや畑を自分で作付けしたり管理したりとか、農作業をやりたいんだけどね」

 タバタ様は自身で農作業をやりたいようです。貴族は土いじりしないんですけどね。あぁ、でも、花壇の手入れとかする方はいるか。

「こちらに屋敷を構えるのは、宰相や領主と相談すれば可能かと思います。ただ、ずっとこちらに住むのは難しいと思いますので、こちらと王都の行き来になるかと思います。田んぼや畑に関しては、どの程度の大きさが必要かによって、領民といいますか、手入れする人手も必要になってくると思います。お屋敷の庭の手入れも、専門の職人に依頼したりしてますので」

「やはり、そうなりますか・・・ここは気候が良いので作物を育てて、加工したりの実験ができれば良いなと思いまして。それに、塩や紙も、時々、視察して出来をチェックしないとね」

「では、その辺も含めて宰相と相談してみます」

 タバタ様のしたい事はなるべく実現できるように宰相と相談しなければなりません。王国が食べ物で豊かになるかもしれませんからね。

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