南部ドミニオン領
第10話 紙と旅
市場に行ってから数日経ちました。南部ドミニオン領でコメの見学をしてから海に行く日程をいつ頃にしようかと悩んでいるとタバタ様からお呼びがかかりました。
タバタ様は執務室で本を読んでおられました。この本はタバタ様の学習用にと王城の本を写本して頂いた物で、私も読んだことのあります。この王国の成り立ちから数年前までのことが書いてありますが、残念なことに以前の異国人の事は記載されていません。ただ、『〇〇村で野菜の品種改良で』とか『△△村で〇〇が』とか、書いてありますので、同時期に異国人が居たのではと推測することができます。
「メモをするのに、紙とペンが欲しいんだけど」
タバタ様は紙が欲しいとの事ですが、紙は他国から購入していますので、とでも高価です。羊皮紙を取り出し、この辺の事情を説明しました。インクは王国産ですので、ペンとインク、羊皮紙は直ぐ用意できます。
「紙が無いなら作りましょうか?」
「へぇ?」
私は変な声を出したと思います。無いから作るのは分かりましたが、紙を作れるのでしょうか?
「この本の紙ぐらいなら、たぶん・・・作れますよ」
先ほどの王国の歴史の本は20頁で紙に書いてあります。
「この服は麻ですよね。麻から紙を作れます」
タバタ様の説明によれば、麻を細かく砕き、煮て、水にさらし、不純物を取り除いて紙にするそうです。製作工程は色々あるようですが、本と同じような紙ができるのなら試してみる価値があると思います。
ちょうど見学に行こうと思っていた南部ドミニオン領で麻も作られていますので、コメ、麻、海と済ましてしまいましょう。早速、宰相に相談に行かなければなりません。
宰相と南部ドミニオン領でコメ、麻、海を見学する詳細を相談して、宰相にドミニオン領主と打ち合わせをしていただき、日程を調整いたしました。
お屋敷前には、馬車が1台、御者が1人、護衛の騎士が5人、魔法士が2人の8人が集まって居ました。タバタ様は『こんなに護衛が必要なの?』と言っていましたが、南部ドミニオン領には馬車で5日の工程で途中の街や村で4泊ですが、森を3つ抜けるので魔物や凶暴な獣が出るのを考えれば護衛は必要です。それに、稀にですが盗賊も居ます。
タバタ様と私が馬車に乗り込み出発となります。最初の森は、王都近郊の狩人や採取人が狩りや薬草採取で訪れる機会が多いので、獣の数は少ないですが居ない訳ではありません。森の中の街道を馬車と騎士たちの馬が進んでいきます。木の陰からこちらを窺うオオカミが数頭、馬車の中から見えます。タバタ様が外を見て『オオカミが居るんだね』と呑気なことを言っていますが、タバタ様が王国に来られた時に森の街道を歩いたそうですが、襲われなかったのが奇跡です。1人対数頭のオオカミなら、オオカミの方が断然強いです。なので、狩人も数人でグループを作り森へ入ります。オオカミはそれ程、強敵なのです。
特に問題無く、森を抜け、1日目の宿泊地に着きました。王都と領都を繋ぐ街道の宿泊地ですので、ほどほどに栄えています。宿も複数あり商店の商品も王都と変わりなく充実しています。本日の宿は、この街で評判の良い宿を予約しています。タバタ様には1番良いお部屋を、私と騎士たちは、それなりの部屋を予約してあります。
タバタ様のお部屋を見てきました。1番良いと言うだけあって、居間、寝室、クローゼットとなっていて、広々としています。調度品もそれなりに高価そうです。王都のお屋敷と比較すると可哀そうなので止めておきましょう。夕飯は王都に近いので、王都の食事とそれ程変わりありません。この街には特産品が無いので仕方ないことです。
ドミニオン領に入れば、宿や道案内はドミニオンの領主が手配するようになっています。こちらから、何を見学し、何をしたいのかは伝えてありますので、領主の手腕に期待しましょう。ドミニオン領には特産品が多いので食事も期待できると思っています。
5日目の朝、出発して直ぐに南部ドミニオン領に入りました。ここから半日ぐらい進むと領都になります。この辺は山間なので小麦ですが、もう少し南に行くとなだらかな平野になり、野菜類の栽培が行われているようです。
森の際から小麦畑が一面に広がり、まだ時期が少し早いようで、青葉も少しありますが、黄金色に色づき始めたいた小麦が風に揺れています。小麦畑の先には王都と同じように石塀に囲まれた領都があります。タバタ様も馬車の窓から外を眺め、
小麦畑から野菜畑に変わり、ドミニオン領都に入りました。街道は土の道ですが、領都の中は石畳が敷いてあります。領都の中を暫く進み、領主館へ到着しました。ドミニオンの領主は現王の
ドミニオン領には海がありますので、新鮮な魚が手に入ります。夕飯は、焼き魚、ムニエル、煮魚と魚をメインにした料理とコメを使った料理がありました。コメの料理はパエリアと言うようで、これにも魚貝が入っています。王都まで魚を運ぶには5日は掛かりますので、どうしても新鮮な魚は王都では高価になりますが、ここは海まで1日程度なので安価に手に入るのでしょう。とても美味しいです。
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