第7話 市場と商店
ここまでで大分時間が掛かっていますが、市場にたどり着きました。普段はこんなに時間は掛かりませんが、タバタ様が嬉しそうなので時間の事は気にしません。
市場と言っても、市場と言うお店がある訳ではありません。大きな建物の中に小さなお店が沢山入っているところです。ここでは果物、野菜、肉、魚などの食料品の他、鍋や器などの料理小物まで売っています。タバタ様は野菜や果物に興味があると思われますので、まずはそちらから回ることにします。
色々な野菜が並べられた店先で、タバタ様が店主の老婆と会話しています。何を話しているのでしょうか。
「これは何?」
「知らないのかい?これはキャベツだよ」
「これがキャベツなんだ。じゃあこれは、ハクサイ?」
「そうだよ。キャベツは知らないのにハクサイは知ってるのかい。珍しいね」
なるほど、野菜の話ですね。お屋敷でもキャベツのスープが出ていたと思うのですが、言わないでおきましょう。
「王都の近くで作ってるの?」
「隣の村だから、朝採れの新鮮野菜だよ」
「店主は、どうやって食べてるの?」
「そうだね・・・。キャベツはスープに、ハクサイは漬物かね」
「そういえば、スープにキャベツが入ってたね。ハクサイを1つください。漬物は売ってないの?」
「うちは野菜だけだよ。漬物はあっちの方だよ」
おっと、店主と野菜の話が終わったようですね。購入したハクサイは私が持ちます。
次は漬物ですね。この国の漬物は基本的に塩漬けなのですが、お店によって香辛料を入れたりと少しずつ味に違います。漬物樽がいっぱい並べられ、試食用の漬物が少量づつ器に入れられ樽の上に置いてあります。味が分からなければ買えないというお客の要望に答えた試食です。
「おすすめは、どれですか?」
「俺のおすすめは、このカブだね」
「歯ごたえがあって、塩味と甘味のバランスがいいし、鷹の爪がピリッとしてうて、おいしいですね」
「おぉ。兄さん、分かるかい。上手いと思うだが、中々受け入れられなくてな。良かったら、これ持って行ってくれ」
タバタ様は店主からカブの漬物を試食して、1つ貰ったようです。私が持ちます。お屋敷に帰ったら試食させてくださいね。漬物店を去ろうとした時、タバタ様は足を止めました。
「店主。これってタクアンですよね?試食いいですか」
「そうだよ。保存食だよ。あんた若いのにタクアンなんか知ってんのか」
タバタ様の食べる表情を見ると、懐かしむような感じがします。お国の味と似ているのでしょうか。私はタクアンを食べたことがありません。
「これ1本ください。これはどなたが考案されたのですか」
「ダイコンもカブも俺の4代ぐらい前ときに村に来た人に教えてもらったそうだ。最初は栽培の仕方で秋ぐらいに来た時に漬物を教えてもらったそうだ。爺さんどうしで話が弾んで宴会してたらしいぜ」
タバタ様はタクアンを購入しました。昔からある食材や食べ方では無いらしいです。店主の話でタバタ様も何か思うところがあるように感じます。もしかする以前の異国人が栽培と加工を教えたのではないかと私は考えます。
次に訪れたのは、香辛料を扱うお店です。袋にたくさん入っていて、色々な匂いが混じって独特な香りがするので、私はあまり得意ではありませんが、タバタ様は興味がおありのようです。
「これは・・・、胡椒、ナツメグ、サフラン、ターメリック、ローズマリー、セージ、オレガノかな」
「おぉ、お客さん。詳しいね。南部領から仕入れてるんだが知名度が低くてなぁ。お客さんみたいに分かる人がいると嬉しいよ」
「全部、南部領からですか?」
「そうだよ。この辺は寒いから育たないんだ」
「使い方・・・食べ方は教えてないんですか?」
「俺は料理人じゃないから、そこまではな」
「そうですか・・・。では、胡椒とローズマリーとローリエをください」
タバタ様は料理もできるのでしょうか。何に使うか分からない粒と葉を購入するようです。
その後もあちこちのお店で声を掛け、色々と見て回ります。タバタ様は野菜や果物、香辛料など、色々知っているようです。知識の豊富さに感心します。
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