第42話 令嬢、国内最強と死合う

 目の前に立つのはミスリル製の鎧に身を包み、同じくミスリル製の六尺棒を構えた、刈り上げた茶髪の偉丈夫。

 彼の呼び名は数多くありますが、それらの意味はどれも大差はありません。


 対人最強。

 国内最強。

 人によっては人類最強。


 そのどれもがガイア様の凄まじい戦闘能力の高さを讃えて称された物なのです。



「来たぞぉッ、準決勝第2試合!午前の部の試合はこれで最後!!観客席の皆さん盛り上げの方よろしくうッ!!!」


「「「「「「ガイア!ガイア!ガイア!ガイア!レンちゃんかわいい。ガイア!ガイア!ガイア!ガイア!レンちゃん結婚しよ。ガイア!ガイア!ガイア!ガイア!ガイア!」」」」」」


 観客席はガイア様への応援一色です。


 10年連続優勝の武闘大会の覇者。

 会場にいる誰もが彼の勝利を疑っていないのでしょう。


「ではお馴染みの選手紹介!左コーナー!最強パーティ【雌伏の覇者】のリーダー!パーティだけでなく本人も最強!故に敵なし!!ガイアァッ!!!対する右コーナー!空飛ぶ素敵なお嬢様!相手が国内最強ならこっちは魔力量世界最高だぁッ!レエエエェンッ!!!」


「宜しくお願い致します、ガイア様」


「別に殺し合いをする訳でもないんだ。そう硬くなる必要はないだろう」


 それはそうなのですが、もしガイア様の振るう棒術を一度でも受けてしまえば誇張抜きで命に関わりうるのですよね……。

 流石のカリン様でも絶命した者まで治す事は不可能でしょうし、絶対に彼の攻撃をもらうような事があってはなりません。


「勝敗予想は掛け金の割合からガイア選手が8!レン選手が2!おっとぉ?珍しくガイア選手相手に2をつける者が現れたぞぉ!!おそらく空を飛ぶレン選手相手にガイア選手は対抗手段を持ってないと考えての判断でしょう!果たしてそのベットは吉と出るか凶と出るかぁッ!!」


 武闘大会の勝敗予想でガイア様が出場される試合は基本的に9対1が付くのが通例。

 9対1と言っても10人に1人がガイア様の敗北に賭けている訳ではなく、実際には1人でも相手選手に賭けている方がいれば9対1として表現する事にされているそうです。


 ちなみに去年のエキシビジョンマッチではガイア様が8、お兄様が2となっていました。

 戦力指数Sランク最強で対外的にはガイア様より格上扱いのお兄様、そしてガイア様では対応不可能だと判断されている戦術を使うわたくし。


 ここまで条件が揃ってようやく勝敗予想で相手側に2がつくのがガイア様なのです。



「それでは……試合開始イイイィッ!」


「【飛翔ひしょう】!」


 開幕と同時にわたくしは高さ20mの空へと飛び上がりました。

 ガイア様は……動いていない?


 試合開始の宣言とともに六尺棒を投擲でもされたらどうするかと危惧していたのですが、まさかわたくしの飛行戦術を止めにすら来ないとは完全に想定外でした。


 わたくしを見上げるガイア様はと言いますと、彼は掌をクイッと自分の身体に向けて振っていました。

 撃ってこい……という事なのでしょうか?


 なんて堂々としているのでしょう。


「【風玉かざたま】!」


 翡翠色の魔力を込めた風の球体を小型の杖から放ちます。

 その数は5発。


 その威力はアロン様相手に使った時と違い、普段魔物相手に使っている物と同じです。


 わたくしの放った魔術に対してガイア様はミスリル製の六尺棒を持ち、飛来する風の球体を待ち構えると――


「ハアッ!!」


「!?」


 凄まじい速度で空に向けて突きを放ち、【風玉かざたま】を全て破裂させてしまったのです。

 それもたったの一突きで。


 まさか……わたくしの【風玉かざたま】を突きの風圧だけで全て破壊したというのですか!?


「……【鎌鼬かまいたち】!」


 呆気に取られている暇などありません。

 圧縮された巨大な風の刃を放ちました。

 その数は3発。

 

 ガイア様は【風玉かざたま】より殺傷力の高いこの技もあっさりと横殴りにして霧散させてしまいます。

 ですがこれは最初から分かっていた事。


 本戦の対戦表が発表された時点でわたくしはヒナミナさんと一緒にガイア様への対策を立てていました。

 互いが順当に勝ち進めば準決勝第2試合でわたくしと彼がぶつかるのは必然。


 そしてその策とは……とにかく魔術を放ち続ける事です!


 わたくしが幼い頃から見てきたガイア様の武闘大会での試合、そしてヒナミナさんが【雌伏の覇者】に在籍していた頃に見たガイア様の戦い。

 それらに共通するのは彼が戦闘において飛び道具の類を使用した事がないという事実です。


 つまりわたくしが【飛翔ひしょう】で空を飛んでいる限り、彼に対抗手段は皆無!


 そして大会では試合が15分を超えると審判によって有利不利が判断され、勝敗が決まる事が認知されています。

 ですからわたくしが全く攻撃を受けない状態でかつ、一方的に攻撃を仕掛けているアピールができればガイア様にダメージが通らなかったとしてもわたくしの勝利になる……筈です!


 わたくしは審判にアピールするべくよりいっそう攻撃を––––


「そろそろいいか。【生成クリエイト】」


 飛来する魔術を捌きながらガイア様がぼそりと呟きました。

 すると彼の大きな掌にそこから溢れるぐらいの大きさの石が現れたのです。

 ……ガイア様が土属性の魔術を?


「本来はヒナミナを相手に使おうと思っていた技だが、どうやらそう悠長にしてる訳にもいかないようだ。レン、悪いが君には怪我をさせる事になる」


 背筋にぞわりと寒気が走りました。

 嫌な予感がします。


 わたくしはガイア様に行動をさせまいと【鎌鼬かまいたち】を何度も連発しました。

 しかし彼はそれを横に大きく跳ぶ事で回避します。



 これまで全て受けていたにも関わらず回避を選んだ理由はただ一つ。

 それは……攻勢に出る為!


 ガイア様は掌の上の石を放ると––––


「【散弾岩ロック・キャニスト】」


 空中の石に向けて六尺棒を振り抜き、バラバラに砕いてしまったのです!


 打ち抜かれ、散弾となった石はとんでもない速さでわたくしに襲いかかりました。

 ––––避けられない!


「あうっ……!」


 肩と太腿に激痛が走りました。

 痛みのあまり【飛翔ひしょう】の魔術が解けて、わたくしの身体は急降下していきます。


 いけません、このままでは……。

 わたくしは落下のスピードを抑える為に武舞台へ向かって風の魔術を放ちますが、速度が落ちきら––––え?


「大丈夫か?」



 気付いたらわたくしはガイア様の腕の中にいました。

 どうやら墜落しかけたわたくしを受け止めてくださったようです。


「あ、ありがとうございますガイア様。わたくしの完敗です」



「決まったあああああぁッ!!!勝者はガイア選手!対処不能と思われた戦術になんなく対応し、最後は対戦相手のレン選手すら救ってみせた!やはり私達の『最強』は顕在でしたッ!!」



 かつて憧れて離れた場所から覗き見る事しか出来なかった英雄。

 ガイア様は齢40を超えた今もなお輝きを失わず、多くの少年少女達の憧れであり続けていたのです。




 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 ガイアは元々ヒナミナのライバルとして設定したキャラクターです。


 次回は木曜日に更新します。


 ここまで読んで頂きありがとうございました。

 基本は週2回(曜日は第1話に書きます)更新を目標、忙しい時は週1回更新予定です。

 もし宜しければレビュー、応援コメント、作品のフォロー等をして頂けると作者のやる気が爆上がりしますので、少しでも面白い、続きが読みたいと思った方は宜しくお願い致します。

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