第41話 巫女さん、魔王と相対する
「さぁやってまいりました、準決勝第1試合!大会もここからが本番!いよいよ予選免除組同士の対決だああああぁッ!!!」
時は少し進んで準決勝第1試合。
司会者であるハルカ様の煽りを受けて、観客席がワッと湧きました。
「左コーナー!初戦は瞬殺でその実力は疑うべくもなく本物!
武舞台で準決勝第1試合を行う為に相対するヒナミナさんとレッド様。
そんな彼女達をわたくしはクレイさんとガイア様のお二人と並んで控え室から観戦しています。
既に初戦は全て完了し、4人の選手が脱落。
レッド様の付き添いであるメルバ様は席を外している為、現在控え室にはわたくし達3人しかいません。
準決勝が終わっても決勝戦と3位決定戦があるのでしばらくの間はこの部屋を使う事が許されています。
「ねぇ、ガイアさん。ヒナねぇとレッドさんってどっちの方が強いの?」
クレイさん、中々に聞きにくい事をズバリと訊ねられましたね……。
とはいえ、それはわたくしとしても気になるところです。
ヒナミナさんの身を案じているのが一番の理由ですが、それを抜いてもレッド様は今回、彼女が受けた依頼のターゲットの一人ですからね。
「わからん。レッド殿はそもそもあまり人前に出てこないからな。初戦の立ち回りだけを見ればヒナミナに分があると思うが、彼もまだ実力を出しきった訳ではないだろう」
ガイア様程の方でもどちらが優勢かを判断するのは難しいようです。
とはいえ勝ち目は十分にあるようなので少しだけ安心しました。
「勝敗予想は掛け金の割合からヒナミナ選手が4!レッド選手が6!おそらくこの僅かな差も戦力指数のランクによる判断でしょう!実力者同士、大会きっての好カードとなりました!!」
「お手柔らかに頼むよ、レッドさん」
「ハハッ、君程の猛者を相手に手加減の必要があるのかなぁ?」
初戦と違ってヒナミナさんは最初からミスリル製の刀を抜刀し、八相の構え(肩に担ぐようにして構える上段の亜種)をとっています。
それほどの相手なのでしょう。
「それでは……試合開始イィッ!!」
「【
「【
開始の宣言と共にレッド様の周囲に八つの水の球体が出現し、そこから彼に向かって強烈な水流を放ちました。
しかしすでにそこに彼の姿はなく、唱えた空間魔術によって一瞬でヒナミナさんの背後に回り込んだレッド様はその背中に容赦なくミスリル製の剣で斬りかかります。
「ヒナミナさん!」
「––––ハアッ!」
咄嗟に叫んでしまいましたが、ヒナミナさんは既に察知していたようで背後に斬り払いを行い、レッド様の斬撃を防ぐ事に成功しました。
常時脱力状態からの最速の身のこなしができる彼女だからこその芸当なのでしょう。
そのまま数回斬り合った後にまたレッド様の姿が搔き消え現れて、ヒナミナさんへと攻撃を加えます。
「凄い……」
レッド様は初戦の時とは打って変わって何度もあらゆる方向、そして角度から現れては斬撃を繰り出します。
その際は逆さの姿勢でヒナミナさんの頭上に現れ斬りかかる事もあって、彼が卓越した魔力操作だけでなく驚異的なバランス感覚をも持ち併せている事が伺えました。
対するヒナミナさんもレッド様の攻撃を全て察知して防いでおり、難なくいなしています。
剣戟が長引く前にレッド様が移動を繰り返しているのはおそらく純粋な剣の腕のみならばヒナミナさんに分があるからなのでしょう。
わたくしの願望も混じっている事は否定できませんが。
「ふむ、二人共流石だな。クレイ、もしあそこに立っているのがヒナミナではなく君だったらどう立ち回る?」
「あたし?」
ガイア様がクレイさんに話を振りました。
選手であるわたくしではなくクレイさんに訊ねたのは……そういう事なのでしょう。
「うーん、防ぐだけなら出来るだろうけどあぁも何度も移動されたら攻勢に出るのは少し難しいかな。だからあたしの場合ならあらかじめ魔力をタメといてレッドさんが魔術で移動してきたところに上手く合わせられるかに賭けると思う。ただ––––」
クレイさんはニッと笑みを浮かべ、こう言いました。
「ヒナねぇならそんな博打みたいな事をするまでもなく対応出来る筈だよ」
「【
「!?」
数度の剣戟の最中、ヒナミナさんが水の弾をレッド様に向けて放ったのが確認できました。
その数はたった一発。
ですがただそれだけでレッド様は魔術を捌く為に無駄な動きを強いられる事になります。
結果、先に攻撃を仕掛けているのはレッド様であるにも関わらず、次第に防戦に追い込まれていく事になりました。
しばらく打ち合いをした後、ヒナミナさんから5mほど離れた距離にレッド様が現れます。
このまま続けても不利になるだけだと判断なされたのでしょう。
レッド様はヒナミナさんに向けて剣を差し向けました。
そして––––
「こんなのはどうかな?【
突如、何もない空間から矢が現れてヒナミナさんを襲います。
その数は3本。
レッド様の使われる空間魔術は遠距離攻撃にも対応しているのですか!?
「せいっ!」
驚愕するわたくしとは対照的にヒナミナさんは飛来する矢を冷静に斬り払って撃ち落としました。
流石はヒナミナさんです!
「【
「おっと……」
お返しとばかりに動きの止まったレッド様の側に直接発動された水の弾を放つ魔術が彼の持つ剣の柄を穿ち、その勢いで手から剣が零れました。
好機とばかりにヒナミナさんが地を蹴り、レッド様に斬りかか––––
「参った!降参するよ」
レッド様が両手を上げながら宣言されました。
一瞬声が静まった後、観客席から大きな歓声が鳴り響きます。
「決まったあああああぁッ!!!天才少女と空間の支配者による激戦!制したのは
時間においておそらくわずか3分程度の激闘。
ですがヒナミナさんは確かにその実力を持ってブラン王国でも5人しかいない
「クレイさん、やりましたよ!ヒナミナさんが勝ったんです!」
「うーん」
ヒナミナさんの勝利に喜ぶわたくしとは対照的にクレイさんは腕を組んで考えこんでおられるようでした。
「どうしたのですか、クレイさん?」
「いや、もちろん手加減してた訳じゃないんだろうけどさぁ」
少し歯切れが悪そうにしながらクレイさんは続けます。
「あたし的にはレッドさん、まだ全然やれてたと思うんだよね」
△△(side:スレット)
控え室に戻る通路の途中でミーバル……メルバが待っているのが見えた。
元々あまり表情を出す方ではない彼だけど、今回はあからさまにムスッとした顔をしており、その時点で僕は『あっ、これ説教されるパターンだ』と察した。
「レッド様、先程は少し手の内を見せすぎたのではないですかな?」
部屋の中ではなく廊下なので僕の事を呼ぶ際もレッド呼びだ。
この辺りは僕自身も気を付けておかなければならない。
「存外楽しくてつい、ね。別に予定通り3位決定戦に出場が決まったんだし問題ないだろう?」
「今回貴方様が実力を見せすぎた事で彼女が3位決定戦を辞退する可能性が出てしまわれたのでは?」
「……あっ」
次の準決勝第2試合、僕は順当にガイアが勝つと予測している。
今回の僕達の目的である聖女カリンの奪取。
それを確実に成功させる為の条件は二つ。
決勝戦にヒナミナとガイアを当てる事で王国屈指の強者である彼らによる妨害を防ぐ事。
そして万が一にもレンとヒナミナを接触させて、魔力を与えるような状況を作らせない事。
レンが3位決定戦に出場してくれれば自然とヒナミナから距離を置く事になるけれど、もし彼女が先程の試合を見て僕との実力差を理解し、怪我を恐れて試合を辞退でもしてしまったら……わずかばかりの可能性とはいえ、作戦の決行中にヒナミナと接触する事もあり得るかもしれない。
「メルバ。今からでも僕がレンに対して決して女性を傷つけない優しい紳士アピールをしてみるってのはどうだろう?」
「先程貴方様がヒナミナに何度も斬りかかったのを見られている故に女性に優しい紳士というのはいささか無理がございますし、そもそも彼女はおそらくレズビアンであると思われるのでそういった色仕掛けの類いは効果が薄いかと」
「そうか、彼女はレズなのか」
生涯単独である僕達魔族と違って、人間は雄と雌でつがいを作り繁殖する。
だが、レズであるという事は雌同士でつがいを作るという事であり、それは種を残すという生物としての本能を放棄しているも同義だとも言える。
僕が人間を絶滅させたいという魔族としての本能以上に、人知を超えた作品を創り出したいと望むように、彼女にも本能を超えた先にある望みが存在するのかもしれない。
「……はぁ」
なんにせよ、中々予定通りとはいかない物だ。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
レズではなくお淑やかに百合といいましょう。
ここまで読んで頂きありがとうございました。
基本は週2回(曜日は第1話に書きます)更新を目標、忙しい時は週1回更新予定です。
もし宜しければレビュー、応援コメント、作品のフォロー等をして頂けると作者のやる気が爆上がりしますので、少しでも面白い、続きが読みたいと思った方は宜しくお願い致します。
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