第39話 一般青年冒険者、奮起する

    △△(side:アロン)


「あぁ〜緊張してきたぜ……」


 次は4回戦、俺の試合だ。

 待機室の椅子に座り、貧乏ゆすりする事でウォームアップ代わりにする。


 ビビってるだって?

 ちげぇよ、これは武者震いだっつうの!


 あ、ちなみに第3試合はもう終わったぜ。

 何の面白みもなくガイアの圧勝だった。

 あのおっさん、強すぎるんだよな。


「にしても、これが初めての予選免除組以外との試合になんのかぁ」


 予選免除組。

 これは基本的には毎年優勝してるガイアの事を指すんだが、何故か俺は本戦になると毎年初戦でガイアと当たってあっさり負けるジンクスがあった。


 今回はそれに加えてAランク英雄のレッドさんとガイアに推薦されたヒナミナの二人も予選免除組に該当する。

 予選免除組は互いが1回戦で当たらないよう調整されてるから初戦の4試合中、3試合は実質大ハズレって事になる訳だ。


 だが俺はそれでも初戦突破の夢を諦めなかった。

 4分の3がハズレなら4分の1を引き当てりゃいい。

 俺は、俺より弱い奴に会いに行く!の精神だ。


 情けないって?

 そう言うなよ、俺だってちょっとはいいとこ見せて皆にチヤホヤされたい欲ぐらいあるんだ。

 前に勢いだけでクリルに告ってからというもの、その返事もまだ保留になってるしな。


 そんなこんなで熱心な?祈りが通じたのか俺はついに––––


「この糞みてぇなジンクスを打ち破ってやったぜ!」


 4回戦、俺の対戦相手はなんとあのレンちゃんだった。

 お前あんな可憐なお嬢様相手に本気で戦うとか鬼畜かよ、なんて思われても知ったこっちゃねぇ!

 武芸者としてここに立っている以上は手加減無用、これこそまさに男女平等ってやつだ。


 ……とは言ってもレンちゃんも予選免除組よりマシってだけでそう簡単に勝たせてもらえるような相手じゃないんだけどな。

 俺は本戦での対策も兼ねて毎回予選は全部見学するようしてるんだが、空を自在に駆け回り他の選手9人全員を倒した彼女の戦いぶりには度肝を抜かれた。

 俺の得物が弓じゃなかったら試合を投げてたところだったぜ……。


 ま、なるようにしかならねぇか。



    ◇



「いよいよ1回戦もこれで最後!場も暖まってきたところで第4試合の選手紹介やってくぞー!!」


 武舞台の上に立った俺は司会者のハルカさんのくそデカい声に軽く耳を傾けつつ、対戦相手のレンちゃんと向き合っていた。

 ドレスの上から黒のローブを纏った、白い髪をツーサイドアップにセットした少女は表情に若干の緊張が出つつもパッチリと開いたその真紅の瞳で俺を真正面から見据えてきた。


 うーん、めっちゃ可愛い。

 って見惚れてどうすんだ俺!


「左コーナー!大会本戦出場の常連にして最強パーティ【雌伏の覇者】のサブリーダー!今日の相手はガイア選手じゃないから全然勝ち目はあるぞぉ!?ブラン王国きっての弓使い!アロオオオオォンッ!!」


 ハルカさんの紹介と共に俺は弓を頭上に掲げて観客にアピールする。

 やっぱ決める時は決めないとな!


 観客席からは『今日こそ勝てよー』なんてヤジ、いや声援が飛んできた。


「対する右コーナー!魔力量28000!文句なしの世界記録保持者!!Cランク一人前ながらも予選を最高戦績で勝ち上がったダークホース!!その名は……レエエエエエエェンッ!!」


「対戦宜しくお願い致します、アロン様」


「おう、お互い全力を尽くそうぜ」


 紹介後、レンちゃんはローブの下の方を軽く摘んでカーテシーの姿勢で観客ではなく俺に対してお辞儀をしてきた。

 うーん、やっぱ可愛いぜ。


「勝敗予想のオッズは賭け金の割合からおよそ4:6!おっとぉ?本戦出場常連のアロン選手より初出場のレン選手の方が期待されてるぞぉ!意地を見せろ、アロン選手!!」


 うるせぇよ!

 っていうか俺の方がレンちゃんよりオッズ低いのかよ!?


 いや、確かに予選の戦績ではレンちゃんの方が上だったし、魔力量世界一位ってインパクトがすげぇのは認めるが、流石に俺が初出場の女の子に負けるって考えてる奴の方が多いのはちょっとだけ傷付いたぜ?

 くそっ、絶対勝ってやるからな!



「それでは……試合開始ィッ!」


「【疾風の矢ゲイルアロー】!」

「【飛翔ひしょう】!」


 開始宣言と共に俺は風の魔術で加速した矢をレンちゃんに向けて放つ。

 放たれた矢は斜め右に横っ飛びする要領で空中に逃れた彼女に躱されちまった。

 垂直に飛ぶと予想してたんだがアテが外れたぜ。


 レンゃんは矢を躱すと同時にその身を一気に上昇させ、20m近い高度まで飛び上がった。

 見え……ってそんなバカな事やってる場合じゃねぇ!


 ここまではまぁ想定内だ。

 お互い得意の遠距離戦、受けて立ってやろうじゃねぇか!


「【風玉かざたま】!」


 レンちゃんは俺に的を絞らせないように常に浮遊しながら移動しつつ、こちらへと構えた小型の杖から風の球体を放ってきた。

 その数は……延々と撃たれ続けてるから数える意味ねぇなこれ。


 そんな次々と降ってくる球体を俺は自分に風の魔術を使う事で持ち前の体術と合わせて軽々と躱していく。

 武舞台はかなり広い作りだから避ける為のスペースには困りゃしねぇ。

 もちろん地面という遮蔽物自体がないレンちゃんほどじゃないが。


 球体を躱しながらも時折弓を上空へと構えて引く。

 正直、結構やってて厳しいモンがあると感じる。

 横ではなく上に構えて矢を放つのは普段より体力を消耗するし、狙いもつけにくい。


 あっ!

 俺の放った矢がレンちゃんが上から降らしてくる魔術と相殺した。


 だがこれは引き分けとは言えねぇ。

 何故なら次から次へと風の球体は俺を目掛けて降ってくるからだ。


 連射力が違いすぎるぜ……。

 誰だよ、遠距離戦を受けて立ってやるとか言ったバカは。

 俺だったぜ。


 不意に風の球体による攻撃が止んだ。

 おそらく勝負を決める為に魔力のタメをしているんだろう。

 逃げ回る状況に追いやられているっつても、別に俺は今のところダメージを一切喰らってないしな。


 俺は攻撃が止まった隙を狙い、矢を放とうとして……やめた。

 作戦を思いついたからだ。

 あの子は動体視力がいいからどうせ普通に撃っても当たらねぇだろうし、ここは一発に賭けた方がいい。


「【風爆ふうばく】!」


 構えた杖から放たれた複数の【風玉かざたま】が圧縮された魔術がふわふわと武舞台の中央へと向かっていく。

 俺をその風圧で場外へと吹き飛ばすつもりなんだろう。



 ––––そう来ると思ったぜ。


「【風即弾ファストバレット】!」


 レンちゃんが決めの大技を放ってすぐ、俺はただ速さだけを追求した風の弾丸を指先から放つ。

 ちなみに威力はデコピンと同程度だ。



 弾丸はまだ彼女からそう離れていない位置にある【風爆ふうばく】に触れて––––

 巨大な破裂音を鳴らし、爆発した。





 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 サブキャラなのに何故か2回も視点をもらう男がいるらしい。

 アロンのような遠距離攻撃できる武芸者にとってもレンとの戦いはかなりのクソゲーです。


 ここまで読んで頂きありがとうございました。

 基本は週2回(曜日は第1話に書きます)更新を目標、忙しい時は週1回更新予定です。

 もし宜しければレビュー、応援コメント、作品のフォロー等をして頂けると作者のやる気が爆上がりしますので、少しでも面白い、続きが読みたいと思った方は宜しくお願い致します。

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