第33話 令嬢、予選に参加する
「ここが武闘大会の会場かぁ。なんていうか無駄に広々とした場所だね」
闘技場の中心にある武舞台を見渡してクレイさんが感想を述べました。
現在わたくし達はバレス家が所持している武闘大会を行う為の闘技場、その観客席で予選の順番待ちをしています。
順番待ちとは言ってもヒナミナさんは予選免除、クレイさんはそもそも予選への参加条件が戦力指数
こうしてわたくしの心身を心配して付き添いをしてくださるお二人には感謝するばかりです。
わたくし一人では屈強な殿方達の中に単身で颯爽と乗り込んでいくなんてとても……。
「確か予選は10人ずつまとめてやって、そこで倒すか舞台から落とした人数によって本戦に参加できるかどうか決まるんだっけ?今のレンならそうそう負ける事はないだろうけど、手加減しすぎてあんまり倒せませんでしたー、なんて事にならないようにしないとね」
「はい。ただもし殺傷してしまうような事があれば反則負けになってしまいますし、わたくしとしてもいたずらに皆様を傷付けたくはないので、できる限り慎重に立ち回りたいところです」
当然ながら参加者は人間である上に実力も人それぞれです。
もし練度の低い方を相手に、わたくしが普段魔物を殺傷する為に使っているような威力の魔術を直撃させてしまえば……あまり想像したくないような事になるでしょう。
実際、腕のいい治癒師の方々や聖女様であるカリン様が控えているとはいえ、数年に一度は死者が出てしまう事もあるのです。
「只今より予選の第1試合を開始します!番号札1番から10番までの方は部舞台に集まってください!」
「……!それでは行ってまいります」
魔道具によって増幅された声によって予選開始の知らせを受けたわたくしは強化繊維で編まれた黒のローブを着込み、立ち上がりました。
わたくしの番号札は4番なのでいきなり予選の初試合に出るという事になります。
それにしても番号が死を連想する4というのは少し縁起が悪いですね。
「レンちゃん。昨日ボクが君に言った事は覚えてる?」
席を立つわたくしにヒナミナさんが声をかけてくださいました。
もちろん覚えています。
わたくしがヒナミナさんから言われた事を忘れる筈などあり得ません。
「はい。もし怪我をした時は意地をはらず、すぐに降参します。ヒナミナさんにご心配はおかけしません!」
「うん、よくできました。……頑張ってね」
「頑張れ~」
◇◇
武舞台に参加者計10名が集まると共にそれぞれ合図があるまで舞台の端の方に待機するように命じられました。
わたくしはすぐに辺りを見回して情報を確認します。
武舞台は直径50mほどの地属性の魔術によって構成された円形のリング。
闘技者はわたくしを除き9名。
胸のプレートを見る限りその内訳は
手強そうなのは
後の方達は手にしている武器が近接用の物なのでわたくしに対しての有効打は限られてくるでしょう。
続いて武舞台の外に目線を向けます。
武舞台の周辺にはミスリル製の鎧に身を包んだバレス邸の兵士が5人控えていました。
その戦力指数はいずれも
彼らの役割はもちろん戦う事ではなく、10人もの武闘家達が入り乱れて戦う試合の審判であり、かつ戦闘中に脱落した者達の回収を行うのが仕事となっています。
人数から推測するにおそらく審判一人につき選手二人を担当するという事なのでしょう。
続いて舞台から十数メートル離れたところにある屋根付きのスペース、そこには武舞台の修復を行う為の地属性の魔術の使い手達、さらにはカリン様を含めた治癒師の方々が待機していました。
わたくしの視線に気付いたカリン様が小さく手を振ってくださったので軽くお辞儀をして返します。
そして武舞台をぐるりと囲むように配置された観客席。
予選という事もあって観客はまばらで、ヒナミナさん達のいる場所もすぐに特定できました。
リラックスしているクレイさんとは対照的にヒナミナさんの表情は真剣そのものです。
もしかしたらわたくしに何かあった時の為にすぐ飛び出せるよう準備してくださっているのかもしれません。
優しい、好き。
最後に観客席の上部には闘技場の支配人が試合を見物する為の部屋があり、そこにはお父様と執事長であるセルバスさんの姿も見えました。
武闘大会はバレス領の一大イベントであり、予選とはいえ領主であり闘技場の支配人であるお父様が時間を割いて見学するのも分かります。
不意にわたくしとお父様の目が合ったような気がしました。
お父様は軽く頷いたように見えましたが、おそらくそれはわたくしの願望、気のせいなのでしょう。
一通り確認し終えた後、わたくしは武舞台に目を戻します。
参加している9人の闘技者、その大半の殺気がわたくしへと向いているのが感じ取れました。
それも無理のない事です。
予選通過のためには自分が何人他の闘技者を倒したかが重要になるのであって、そこに倒した相手の質は問われません。
であれば彼らが見た目からして与し易い小娘であるわたくしに狙いを定めるのもごくごく自然な流れです。
彼らの殺気を受けて、わたくしは魔力を練り始めました。
こうしておけば開始の合図とともにすぐ魔術を発動できる為です。
試合が始まる前にわたくしは軽く目を閉じて大会までに積んだ訓練の日々を思い返します。
主な練習相手はクレイさんに務めて頂きましたが、わたくしは長い間、彼女の体捌きと高い魔術操作能力に対応できませんでした。
わたくしの魔術に対応しつつ、攻勢に出られる、そんな相手に対抗するにはどうすればいいか。
考えに考え抜いた後、わたくしは一つの知見を得ました。
それは––––
一方的に、わたくしだけが相手を攻撃できる状況を作り出せばいいという事です。
「それでは––––試合開始!!」
開始の宣言と共にわたくしは魔術を唱えます。
「【
殺到する他の闘技者や飛んでくる魔術、その全てを置き去りにして––––
わたくしの身体は宙へと舞っていました。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
屈強な野郎共から狙われる華奢なお嬢様ってなんかえっちな響きですよね(謎)
☆の数が100を超えてました。
いつもありがとうございます!
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