第28話 義妹のパラドックス
※過去一暗い内容なので一応注意(グロとかはないです)
△△(side:クレイ)
「はぁ~やっちゃった……」
ヒナねぇとレンの前から逃げ出して1時間ほど、あたしは切り株の上に腰掛けてうんうん唸っていた。
ちなみにヒナねぇの言いつけ通り『魔の森』の奥には進んでない。
腕にはそれなりに自信はあるけど、あたしはヒナねぇみたいな超人ではないしね。
引き際は心得てない……と?
「心得てたらこんな事にはなってないっての。どうしよう、絶対嫌われたし気持ち悪いって思われたよ……」
姉の恋人を押し倒す妹なんてまるで恋愛小説に出てくる悪役みたい。
それ以前に幻聴が聞こえてる時点であたしの頭はだいぶおかしくなってると思う。
「日陽に帰った方がいいのかな?」
あそこで英雄扱いのあたしは最悪働かなくても食っていける。
だからこそ、これまでずっとフウカの捜索を続けられたんだけど。
「……帰りたくないな」
帰ってからも絶対に見つからないフウカを延々と探し続ける自分を想像して背筋がゾッとした。
仮に奇跡が起きて見つかったとしてもそれが遺体だったりしたらもうあたしは生きてはいけなくなる。
フウカが見つからなくても、見つかっても絶望しかない。
もうあたしはどうすればいいのかわからなくなっていた。
「ヒナねぇに相談しなきゃ」
ヒナねぇはいつもあたし達に道を指し示してくれた。
あんなにかっこよくて、綺麗で、頼りになる人をあたしは知らない。
答えが見つからなかったとしてもきっとあたしの事をいっぱい慰めてくれるだろう。
あの人はとても優しい人だから。
あたしには今、ヒナねぇが必要だ。
そうだ、ヒナねぇが――
「ヒナねぇがフウカの代わりに死ねばよかったのに」
え?
あたしは今、何を……。
待って、落ち着こう。
今あたしは絶対に想像しちゃいけない事を考えてる。
ヒナねぇはいつもあたし達の幸せを考えて行動してくれた。
それが上手くいかなかくて、フウカが死んだからってヒナねぇを責めるのはおかしい。
だってヒナねぇはあんなに努力してきたんだから。
……努力?
「あたしだって、フウカだって努力してたよ。むしろあたしの方がヒナねぇよりずっと頑張ってる。ヒナねぇはすぐに諦めて逃げ出したけど、あたしは今も諦めずにフウカを探してるんだから」
……やめよう。
どっちの方が頑張ってるとか、そんなの比べたって何の意味もない。
少なくともヒナねぇには大蛇と張り合うだけの力があった。
だけどあたしにはないから、大蛇の下へ辿り着くまでの道を切り開く事ぐらいしかできなかった。
力のないあたしがヒナねぇを責めるなんて――
「そもそも大蛇を倒そうだなんて言いだしたのはヒナねぇじゃない」
最初は3人で一緒に逃げるだけのささやかな計画だったのに。
フウカに魔力器官を造って、フウカから魔力を貰えるようになって、邪神だって倒せると自分の力を過信したヒナねぇのせいでフウカは死んだ。
やっぱりヒナねぇのせいだ。
……悪い方にばっかり考えるのは良くない。
ヒナねぇだってフウカが死んで苦しんでる。
あたしも苦しい。
お互いに苦しんで、傷つけあってどうするの?
こんな事考えてもフウカは戻っては――
「なんでヒナねぇの隣にはレンがいるの?」
おかしい。
おかしいよ。
逃げずに今も戦ってるあたしは苦しんでるのに、逃げ出したヒナねぇには素敵な恋人がいる。
しかもレンのあの容姿。
フウカにそっくりじゃない!
ヒナねぇはレンがフウカに似てるから恋人にしたの?
もしそうなら、そうでなくともあたしへの裏切りだ。
「ヒナねぇには償ってもらわなきゃ」
まずレンとは別れてもらおう。
あの子は冒険者として単独でもそれなりにできる子だし、実家はお金持ちのお嬢様だ。
ヒナねぇがいなくたって生きていける。
その後はヒナねぇと日陽に帰って、また一緒にフウカを探そう。
ヒナねぇも一緒に苦しんでくれるならあたしはヒナねぇを憎まずにすむし、大好きなままでいられる。
もしフウカが見つかったら一緒に死んでもらおう。
そうすればまた、3人で仲良く……あ。
気付いちゃった。
あたし自身もフウカの生存を信じてないって事に。
「どうしよう、フウカが死んじゃったよ。助けて、ヒナねぇ……」
さっきまで憎んでいたヒナねぇに恥ずかしげもなく助けを求める。
今、確信した。
あたしはもうとっくに狂ってる。
「もうやだ……」
さっきからずっと涙が止まらない。
全部ヒナねぇが悪い事にすれば楽なのに、心がそれを拒否してる。
当たり前だ。
だってあたしはフウカの次にヒナねぇの事が好きなんだもん。
だからせめてヒナねぇにだけは幸せになって欲しい。
あたしはどう足掻いても無理だから。
結局、幸せになって欲しいのか、苦しんで欲しいのか。
もう何をしたいのか自分でも分からなくなってきた。
「はぁっ……はぁっ……」
なんだか息が苦しい。
眩暈がして頭が痛い。
視界がどんどん狭くなってきた気がする。
どうしよう、こんなところで倒れたりしたら魔物が寄ってきて殺されちゃうかもしれない。
どうせ死ぬなら日陽で、フウカが眠ってる場所で死にたい。
呼吸を、整えないと……。
「大丈夫ですか?」
倒れそうになる寸前、あたしの顔をふんわりとした柔らかい感触が包み込む。
「ヒナねぇ、来てくれたの?」
助かった、と思ったら張り詰めていた緊張の糸がプッツリ切れて。
あたしは意識を失った。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
変に感情移入しながら書いたせいで自分にダメージが返ってきました(汗)。
暗い話は終わりです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます