第25話 巫女さん、嫉妬する
「じーっ……」
「あの、クレイさん?そうあからさまに見られると恥ずかしいのですが」
現在、わたくしは浴室の湯船の中でクレイさんと隣り合わせになってお湯に浸かっています。
まだヒナミナさんともご一緒に入浴をした事がないというのに、どうしてこのような事になってしまったのでしょうか?
「んー、レンってさ、今更だけど凄い美人だよね。顔がいいのはもちろんだけど、肌も真っ白で脚も細くて長いし、ヒナねぇ程じゃないけど結構大きいし」
「あ、ありがとうございます。クレイさんもとてもお綺麗ですよ」
視線に耐えきれなくなったわたくしはさりげなく乳房を腕で隠しつつ、クレイさんの方に目線をやりました。
クレイさんは身長はわたくしより5cmほど低く、胸もやや小振りですが均整の取れた体付きをしておられ、筋肉も程よくついた、まさに磨き上げられたような肉体をお持ちです。
おそらくこの方もヒナミナさんと同じく毎日の鍛錬を欠かさず続けておられるのでしょう。
「ありがと。ところでさ、レンに一つ頼みがあるんだけど」
クレイさんはその橙色の瞳で真っ直ぐわたくしを見つめました。
そして––––
「おっぱい揉んでいい?」
「なっ!?」
いきなりとんでもない事を言われました。
「何を言っているのですか貴女は!嫁入り前の令嬢の胸に触れたいなどと、あまりにもはしたないですよ!!」
「でもヒナねぇには会った初日で家に連れ込まれてヤられちゃったんだよね?それでも一緒にいるって事は毎日されてるんだろうし、あたしにもちょっとだけ、ね?一揉みでいいからさ?」
「わたくしとヒナミナさんは清いお付き合いをしているのです!そのような不埒な行為などしておりません!」
「あれ〜、服屋のお姉さんが言ってた話と違うなぁ」
……服屋のお姉さん?
◇
「あはは!寝室に連れ込まれてキスされた上に気を失った後に服を脱がされたって!そりゃそんな事言われたら勘違いしても仕方ないよ!ぷっ、くく……」
「面目ありません……」
話を聞くとクレイさんに対してわたくしがヒナミナさんから不埒な行為をされたと語ったのは前にわたくしのドレスを仕立てて頂いたマーサ様だったそうです。
マーサ様がそう言った話をされたのも前にわたくしと彼女が話した際、ヒナミナさんから受けた魔力器官を作る行為をぼかして伝えた事による弊害による物だと分かりました。
つまりわたくし自身が誤解を招く発言をした事で巡り巡って自分に返ってきたという訳です。
「はーっ、笑った笑った。そうだよねぇ、ヒナねぇって意外とウブだし女の子を連れ込んで無理矢理なんてないよねぇ。前にあたしとフウカがキスしてたのが見つかった時も、それからしばらくの間露骨に挙動不審になってたし」
ヒナミナさんは意外とウブ、これはいい情報を聞きました。
いえ、それはそれとしてもう一つ気になる事が……。
「義理とはいえ、ご姉妹で魔力の受け渡しとかではなくキスを?クレイさんとフウカさんは恋人同士だったのですか?」
「んー、恋人とはちょっと違うかもね。あたしもフウカも初恋相手はヒナねぇで、その事でちょっと張り合ってた時期もあったから。あぁ、でも歳が近い事もあって一緒にいた時間は一番長かったよ。ヒナねぇはあたし達の事をそういう目で見たりしなかったから、そういう体験をしてみたかったあたし達は興味本位で二人でキスしたり、身体をちょっと触りあったりとかして……」
クレイさんは思い返すように目を閉じて、一息つきました。
「一番好きだった。ううん、今も一番好きだよ」
「クレイさん……」
クレイさんが想いを馳せる人はもうこの世界にはいません。
もしわたくしの前からヒナミナさんが消えてしまったのなら、わたくしは生きる気力を保つ事ができるのでしょうか。
そんな事を想像するだけで胸が締め付けられるような気持になり、彼女はこれよりずっと深い悲しみを背負ってきたのだと思うと、わたくしは何も言えなくなりました。
「まぁそんな訳でレンの裸を見てたらフウカを思い出してちょっとムラムラしちゃった訳でした。それじゃのぼせても良くないし、そろそろ出よっか」
ですが今日が初対面のわたくしに直接、欲情したとか言うのはどうかと思うのです。
◇◇
わたくし達の後にヒナミナさんが入浴を終えた後、寝室でわたくし達は3人、川の字になって横たわっていました。
ちなみにクレイさんの提案によって何故かわたくしが中央となっています。
クレイさんなりに気を利かせてくれたのかもしれませんが、それならヒナミナさんが中央でいいような。
提案をした当の本人はわたくしの腕を抱き枕にしながらすやすやと寝息を立てておられます。
きっと長旅でお疲れだったのでしょう。
「レンちゃん、まだ起きてる?」
クレイさんの寝息が聞こえてから数分後、ヒナミナさんから呼びかけがありました。
「ヒナミナさん?」
「あぁ、良かった。ちょっと外で話さない?寒い中申し訳ないけど」
「大丈夫ですよ。行きま––––」
「どうしたの?」
「腕が重くて起き上がれないんです……」
クレイさんにガッチリと掴まれた左腕は非力なわたくしの力では到底動かす事もできず、ヒナミナさんの助けを借りて2分後に何とか抜け出す事ができました。
◇
魔道具による少量の明かりはあるものの、既に外はかなり暗くなっており、冷たい風が肌を刺激しました。
そんなわたくしを見て、外に出る前にヒナミナさんが腕に抱えてきた和服の上着をわたくしの肩にかけてくれます。
優しい、好き。
「今日はずっとクレイちゃんの相手をさせて悪かったね。疲れたでしょ?」
「正直なところ少しは。ですがクレイさんともある程度打ち解ける事ができて安心しました。実際にお会いしたらきっと嫌われると思っていましたので」
「ボクもちょっと驚いたよ。レンちゃんが恋人だって知られたら、『これってあたしへの当て付け?』ぐらいの事は言われると覚悟してたからね」
確かに自分の姉が妹……亡くなった恋人に似た女と付き合っていると知ったら、普通は心中穏やかではいられそうもありません。
「ボクが日陽を出る前は当然クレイちゃんも一緒にって誘ったんだけど、あの子はフウカちゃんの事もあって日陽から離れる事を嫌がったんだ。だけど今、彼女はこうしてバレス領の地にいる」
それはきっとヒナミナさんがわたくしに取られる事を恐れての行動だったのでしょう。
そうなってしまったらクレイさんは本当に一人ぼっちになってしまいますから。
ですが––––
「レンちゃんがフウカちゃんと似てるってのが一番大きいんだろうけど、あの子がこうしてボク達姉妹以外の相手と積極的に関わろうとしてるのを見られるのはお姉ちゃんとしてとても嬉しく思ってる。ありがとう」
「いえ、わたくしに出来る事でしたら何なりとお申し付けください」
クレイさんは悲しみの中から再び立ちあがろうとしています。
それをヒナミナさんが望むというならわたくしもその思いに応えるまで。
……ヒナミナさんとの時間が減る事だけは残念ですが。
「でもね、クレイちゃんに付き合うのが億劫になったらいつでも言ってくれていいんだからね?」
あら?
「レンちゃんはボクの恋人なんだから。もし嫌だったらボクの方からクレイちゃんにガツンと……は難しいけどやんわりと伝えるから!」
ヒナミナさんの表情をよく見るとなんだかそわそわしてるように見受けられました。
これはもしかしたら……
「自意識過剰でしたらお恥ずかしいのですが、ヒナミナさん。もしかしてクレイさんに嫉妬されておられますか?」
「……」
暗くて分かりにくいですが、ヒナミナさんの頬に赤みが刺したように見えました。
……本当に?
「だって……クレイちゃんはずるいよ!ボクだってレンちゃんと一緒にお風呂に入った事なんてないのに、会った初日でなんて!」
頬を膨らませ、握りしめた拳を下げたままヒナミナさんは仰いました。
え?ちょっと待ってください。
いくら何でも可愛すぎませんか?
どうしましょう、触れられた訳でもないのに胸がドキドキしてきました。
もしここが布団の上でしたらわたくしはヒナミナさんのあまりの愛らしさにはしたなくも手足をジタバタさせて悶えていた事でしょう。
「ヒナミナさん!明日から…いえ、今から一緒にお風呂に入りましょう!」
「えっと、流石に今からはちょっと。さっき入ったばかりだし」
つい気持ちが先走りすぎてしまいました。
「レンちゃんはボクが君の胸とかお尻とか見ても、はしたないとか変態だとか思ったりしない?」
「大丈夫です。わたくしも欲望に負けてヒナミナさんのお胸やお尻をお触りしてしまうのではないかと心配してましたから!」
「触る気だったの!?」
ヒナミナさんは胸を腕で隠すようにしてわたくしから離れるように後退します。
しくじりました!
千載一遇のチャンスを逃すまいとしてつい余計な事を!
「と、とりあえず最初は背中を流すぐらいで。お手柔らかにお願い、ね?」
「お任せください!ヒナミナさんの美しいお肌はわたくしが素手で丹念に––––」
「いや、そこは普通にタオルとかでいいから」
クレイさんとの関係と共にわたくしとヒナミナさんの関係も一歩進んだ、そんな一日でした。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
たぶんヒナミナが一番清楚。
クレイは割とオープンな感じでレンはむっつりです。
ここまで読んで頂きありがとうございました。
基本は週2回(月、木)更新を目標、忙しい時は週1回更新予定です。
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