第2章 令嬢、妹ができる
第23話 令嬢、武闘大会出場を打診される
魔王の名前をクレイズ→スレット、偽名をクライス→レッドに変更しております。ご了承ください。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
△△(side:???)
「ふーん、一応日陽と輸出入のやり取りがあるってのは聞いてたけど、ブラン王国って和服を扱ってる店もあるんだ?」
ここはブラン王国バレス辺境伯領にある「colors」っていう服屋さん。
あたしは旅の最中でボロボロになってしまった服の替えを購入する為にこの店を訪れてた。
正直この国で女の一人旅はかなりのリスクを伴うと思う。
バレス領に付くまでに道すがら何度も魔物に襲われたし、明らかに下心を持った男達にも声をかけられたりした。
前者はともかく、後者の男どもはあたしみたいなちんちくりんに構って何がしたいのやら。
ヒナねぇみたいな美人さんに絡むなら分かるけどね。
ここに来るまでにだいぶ疲れちゃったし、さっさと替えの服を購入してヒナねぇのいる貸家を探そう。
選ぶのは……着慣れた巫女装束でいいかな。
「店員のお姉さーん、会計とサイズの調整お願いしまーす!あとあたしが着てた服の処分もお願い!」
「はーい♪……あら、ヒナミナちゃん以外に日陽の子がこの店に来るなんて珍しいわね」
対応してくれた店員さんはお洒落なスーツを着込んだ茶髪にちょっとカッコいい感じのお姉さんだった。
いや、そんな事よりも……。
「お姉さん、ヒナねぇの事を知ってるの?」
「お得意さんだしね。それにこの街でも美人な天才冒険者って有名よ、彼女。ところでそのヒナねぇって呼び方から察するにお嬢ちゃんはもしかしてヒナミナちゃんの妹さんだったりする?」
お嬢ちゃん……。
確かに幼く見られる事は多いんだけど、これでも15歳で成人してるんだけどなぁ。
巫女装束の丈を直してもらう為に向き合ってる鏡を確認する。
そこに映る黒髪橙眼の少女の胸は同世代の少女達と比べて薄く、身長もやや低めだ。
ううん、あたしだってまだまだ成長の余地はある……と思いたい。
「妹って言っても義理の、だけどね。お姉さんはヒナねぇの住んでる場所はどこか知ってる?」
義理……修羅場の予感しかしないわね、なんてお姉さんがボソッと呟いた。
え?修羅場って何?
「教えてもいいけど、手を出すならヒナミナちゃんだけにしなきゃダメよ?レンちゃんだってヒナミナちゃんの毒牙にかかった被害者なんだから」
「被害者って?」
レンって子の事はヒナねぇとの手紙のやり取りで一応知ってはいる。
とは言っても凄い美人なお嬢様でヒナねぇの事が好きらしい、ってぐらいの事だけど。
ただ、お姉さんの剣幕から感じ取れるのはそんな生優しい物じゃなさそうに見える。
「簡単に説明すると、ヒナミナちゃんは出会った即日に気を失ってるレンちゃんを自宅に連れ込んで最後までヤッちゃったのよ。もしお嬢ちゃんがヒナミナちゃんの事を想ってるのなら、別の恋を探した方がいいとだけ言っておくわ」
えぇ……?
ヒナねぇ、わざわざ外国まで来て一体何やってるの?
△△(side:レン)
「わたくしとヒナミナさんが1ヵ月後に開かれる武闘大会に、ですか?」
高級そうなスーツに身を包んだ暗めの金髪をした背の高い男性、ジェイル様からの打診にわたくしはぽつりとつぶやきました。
現在、わたくしとヒナミナさんは冒険者ギルド2階の執務室でギルドマスターであるジェイル様から依頼の説明を受けています。
内容はわたくし達に毎年この地で開催される武闘大会に出場して欲しいとの事ですが、その理由はまだ明かされていません。
「あぁ、とは言っても依頼人はそれぞれ別だがな。レンの方は領主様からの依頼だ。武闘大会の予選を勝ち抜いて本戦に出場したら金貨10枚の報酬を出すとの事だ」
「おと……領主様からですか?」
「別に俺相手には隠さなくてもいいぞ。ほぼ公然の秘密ってやつだ。まぁおそらく、領主様は君に武勲を立てさせたいんだろうな。俺としても自分のとこの新人冒険者が国内で最も有名な武闘大会の本戦にまで勝ち進められたってんならいい宣伝になるし、大歓迎だ」
もしかしたら先日お父様にお会いした時にわたくしが彼に言った、冒険者として大成してみせるという発言に対する返答がこの依頼なのかもしれません。
つまり、わたくしはお父様に試されている……。
「で、受けるのか?大会には多くの治癒師に加えて聖女様まで控えているとは言え、死亡のリスクも完全に0にはできない。無理にやらんでも––––」
「お受けします!」
「お、おう。やる気があるのはいい事だな。で、話を戻すがヒナミナの方は俺、というよりギルドからの依頼だ」
「ギルドからボクに?」
「あぁ、依頼内容は二つ。まず一つ目は大会の優勝者が出なければいけないエキシビションマッチで対戦相手の
まさかのお兄様絡みでした。
「まぁ、ガネット氏があの時と変わらない実力だったらそうなるだろうね」
「前年度ではエキシビションマッチ自体が初の試みだった事もあって優勝者のガイアが
「ボクがガイアに勝てるかはさておいて、受ける分には構わないよ」
「それは助かる。まぁ本当に厄介なのは次の依頼なんだけどな。二人は【無貌の王】って冒険者パーティの事は知っているか?」
「ごめん、知らない」
「ブラン王国において【雌伏の覇者】に次ぐ実力があるとされているパーティだと聞いております。メンバーはレッド様とメルバ様のお二人でどちらも
姿こそお見かけした事はありませんが、【無貌の王】は王国で5人しかいない戦力指数
「まぁヒナミナは日陽人だから知らなくても仕方ないだろう。今回はその片割れのレッドが参加を表明してるんだがこいつがかなり雲散臭いやつらでな。【無貌の王】の活動歴はもう50年程になるんだが––––」
「50年?よくそんなに長く活動を続けられるね?冒険者なんて体力勝負みたいなところがあるのに」
「話はここからだ。お前の言うとおり、普通ならもうジジイになっててもおかしくない筈なんだが、レッドの見た目はどう見ても20代前半ぐらいにしか見えないんだよ。相方のメルバは爺さんなんだがこいつもこいつでレッドと同じく長年見た目年齢が変わってない。噂では二人とも不老不死なんじゃないか、なんて言われてる」
不老不死……なんだか話が壮大になってきました。
「ちなみにレッドが使う魔術は系外魔術の一つである空間魔術でな。これはまぁ、便利ではあるものの戦闘には不向きな魔術なんだがそれでも数十年もの間、
空間魔術。
わたくし達が使っている収納袋にもこの魔術が使われてはいるものの、一番に思い出されるのは先日のダンジョンでの一件でした。
ダンジョンの途中にあった扉に仕掛けられた空間魔術によってわたくしとヒナミナさんは分断されてしまったのです。
ここに来て戦力指数
ヒナミナさんの方を見ると彼女も同じ考えに至ったようで、小さく頷きました。
単なる偶然と考えるにはタイミングが合いすぎています。
「ここまで言えばもう分かってると思うがもう一つの依頼内容は大会でのレッドの撃破だ。ガイアが10年以上守り続けてきた大会の優勝者がバレス領の領民であるというブランドを余所者に台無しにされたらたまらんからな。成功報酬は金貨20枚。受けてくれるな?」
「さっきの依頼といい、クジ運によってはガイアに成功報酬を総取りされそうなのがアレだけど、受ける分にはいいよ」
「まぁ、そう言うな。大会自体が3位以内に入賞できれば賞金が出るんだ。そう考えればついでに収入が増える可能性があるだけでも悪くない話だろう?ちなみに本戦出場者の枠は8名で前回優勝者のガイア、
◇◇
ジェイル様との話を終え、帰り道に今日の夕食の材料を購入して戻って来た最中、貸家の前に一人の少女が佇んでいるのが見えました。
遠目で確認できる少女は黒髪で赤の袴に白衣の巫女装束を着ており、おそらく日陽出身なのだろうと推測できます。
「紅麗《クレイ》ちゃん!?」
どさり、と手に持った荷物が落ちた音と共に隣にいるヒナミナさんから驚きと喜びが入り混じったような声が上がり、彼女は一目散に少女の下へ駆けて行きました。
ヒナミナさんに気付いた少女は嬉しそうに笑うとブンブンと手を振ってご自分の存在をアピールされています。
あぁ、ついにこの時が来てしまったのですね……。
確かに私は数日前、ヒナミナさんの幸せに必要となるならばここに連れてきてくださいとは言いましたが、いくら何でも早すぎだと思います。
クレイ様。
ヒナミナさんの義妹で、彼女が最も大切な存在だと言っていた少女。
まだ向き合う覚悟も決まってないまま、とはいえ回れ右する訳にもいかず、わたくしはヒナミナさんが取り落とした荷物を持ち直すと、歓談する彼女達の傍へゆっくりと歩みを進めました。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
クレイのイメージを近況ノートの方に載せてあります。
https://kakuyomu.jp/users/niiesu/news/16818023212390219955
ここまで読んで頂きありがとうございました。
もし宜しければレビュー、応援コメント、作品のフォロー等をして頂けると作者のやる気が爆上がりしますので、少しでも面白い、続きが読みたいと思った方は宜しくお願い致します。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます