第17話:王子様の麗しの姫は何処に?
「後の処分は文部大臣のシュミット・マリアーニ伯爵にお任せ致します」
サンドリアは泣きながら言い続ける。
「あたしは王子様と結婚する運命なのに」
サンドリアは女性近衛に連行されていった。
***
王立学園はしばらくの間封鎖された。
生徒達は各自の家へ戻され、職員たちは取り調べを受けることになった。
結果、グレーリン子爵令嬢を始め、十七人の庶民科の教員と九人の職員、五人の貴族科の教員が処罰を受け学園から追放された。
賄賂を贈って成績を上乗せしていた生徒とその保護者は全員が罰金を科され、生徒たちは熟読度に合った学年に編入された。高等部から初等部へ落とされた者もいた。一部は放校になった。
デライン男爵は認めていない庶子とは言え、娘サンドリアの監督不行き届きの咎で一部の所領を没収された。
サンドリアは…
サンドリアはジルリアやライラへの不敬行為を見逃すことができず、王都から離れた西方の辺境都市エンダルの修道院での三年の修業と修練を命じられた。
かくして、長い間蔓延っていた王立学園の悪習は洗い出され、健全化に向けて新たに第三者委員会が学園を監視することになった。
職員も第三者委員会が選出に立ち会うことになった。
第三者委員かは常時置かれることに決定し、許可なく選出することを禁じられた。
***
「なんだかサンドリアって可哀想ね」
学園は一年間閉鎖されることになり、王宮で四人は学ぶことになった。
ジルリアはライラに会えなくなり、やきもきしていた。
休憩時間のお茶の席で、ベアトリスがぽつりと言ったのだ。
「そうね」
アンジェリーナも悲し気に頷く。
「デライン男爵には腹がっ立ったわ。娘じゃないとばかりの言い草だったじゃない」
やや激しい気性のフランシーヌが憤慨する。
「教育は大切ってことさ」
デーティアが寛いだ姿で言う。
いつもの黒いドレスに戻っている。学園では少女らしい淡いオレンジやクリーム色のドレスを着ていたのだ。
「まあ、地頭も大切だけどね」
そう言って優雅にお茶を飲む。
「尤も…」
デーティアが言いよどむ。
「これはここだけの話にしておくれよ?」
言いおいて続ける。
「調べてみたら、サンドリアはデライン男爵の娘じゃないんだよ」
「なんですって」
「どういうこと!?」
一同が驚く。
「メイドのエリーってのが曲者でね、他の男の子ともをデライン男爵の子供だって色々細工したんだよ」
沈黙が落ちる。
「エリーも、必死だったんだろうね。男には捨てられる、子供を産めば仕事を離れざるを得ない、身寄りはない。どうにもこうにもしようがなくて知恵を絞ったのさ」
ふふっと笑った。
「強かな女は好きだよ」
そういうデーティアに一同呆れ顔だ。
「褒められることじゃないけどね」
ジルリアを見て言う。
「いいじゃないか。女が一人で世間を渡るのは大変なんだ。サンドリアもエリーのような強かさと賢さがあればよかったのにね」
「おばあさま!!」
ジルリアが抗議するように言う。
「覚えているかい?あんたの父親の昔の話を。三人の娘と魔導士に絡めとられて、あんたは一年もの間猫だったんだよ?」
そういうデーティアにジルリアは頭が上がらない。
「おばあさまはお父様を殴ったのよね?」
とアンジェリーナ。
「それも二発も」
とフランシーヌ。
「お父様を?それ聞いたことないわ」
とベアトリス。
「この話は、あんたがもう少し大きくなったらね、ビー」
むくれるベアトリスをデーティアは宥めた。
「まあ、考えてもごらんよ。サンドリアが賢い娘だったら、ジルとの誤解なんか生まれなかったんだよ?」
「そうね」
「そうだわ」
アンジェリーナとフランシーヌが頷く。
「そして王子様と結婚する夢なんか見ずに、学園で学んで身を立てる道を選んだはずさ」
デーティアは遠い目をする。
「学園で学友と楽しく過ごして、生計の道を見出して、それ相応の男と一緒になって幸せな家庭を築けたかもしれないね」
しんみりとした空気が場を満たす。
しかしデーティアは容赦がない。
「さて、王子様?」
ジルリアをにやにやしながら見つめて右手をひらひらと振る。
「次はあんたの番だよ。王子様の麗しの姫は何処に?」
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