第15話:不正を行う者全てに罰が下されるのです

「…って…」

 サンドリアは小さな声でなにか言った。


「聞こえるようにおっしゃってください」

 ダイモス学園長が迫る。


 サンドリアは叫んだ。

「だって知らなかったんだもん!」

 自棄になってサンドリアは言い募る。

「恋人同士はハンカチを贈るって聞いてたんだもん!!」

 泣き叫ぶサンドリア。


「サンドリア・シャルム嬢、落ち着いてください」

 リーディングが宥める。


「いいですか。ハンカチの交換は貴族の間の習慣で、近年は庶民の間でも行われています」

 静かに説明する。

「まず、婚約者同士である男女の間でしか行われません。決して求婚の証ではないのです」

 淡々と続ける。

「まず、男性が自分の家紋入りの男性もののハンカチを女性に贈り、女性は自分で刺繍した女性もののハンカチを男性に贈り返すのです」

 リーディングはサンドリアを向いてきっぱりと言う。

「もしあなたが礼法の講義をきちんと受けていたら、このような間違いも数々の無礼な行いもなかったはずです」


 サンドリアはしゃくりあげていたが少し震え始めた。


「では礼法の講師デリラ・グレーリン子爵令嬢、お入りください」

 控えの間のドアから、蒼白な顔のデリラ・グレーリンが入ってきた。


「グレーリン子爵令嬢、あなたはなぜサンドリア・シャルム嬢に黄色のエポレットを許したのですか」

「そ、それは…」

 グレーリン子爵令嬢は言葉に詰まる。

「サンドリア・シャルム嬢は明らかに礼法もマナーも身についていません」

 リーディングの静かな声が響く。

「長年、我が王立学園では貴族と庶民の間で、礼法に関する衝突が多く起きておりました。そして礼法とマナーはグレーリン子爵家が独占状態でした。この理由をお教えください」

 デリラ・グレーリンは蒼白な顔を伏せて無言だった。


 リーディングは指先でこつこつと机を叩くと、書類の束を取り出した。

「これは王家の治安部隊が調べ上げたグレーリン子爵家の帳簿です」

 デリラ・グレーリンの肩がびくっと揺れる。

「これによると度々、多くの商家や貴族からの用途不明の入金があります。これはなんでしょう?」

 デリラ・グレーリンは無言のまま震えている。

「これを贈賄ととってよろしいですね。ここに名前の出ている家は衛兵が押さえて調査中です。調査が終わった数軒の家からは、贈賄の証言がとれています」

 デリラ・グレーリンはがっくりと項垂れた。


「デリラ・グレーリン子爵令嬢を自室にお連れしてください」

 リーディングの言葉に女性近衛がデリラ・グレーリンを支えるように両側を固めて連れ去った。


「さて、サンドリア・シャルム嬢」

 今度は学長のジョサイア・ダイモスが話し始めた。

「昨日行われた学力試験では、あなたは高等部へ進級できる学力はありませんでした」

 静かに告げる。

「学力も礼法についても、一部の庶民科と貴族科の中等部高等部の生徒が同じような結果でした。それは職員生徒共に追って処分を言い渡し執行します」

 処分と聞いてサンドリアはさらに震えた。


「ジュール・デライン男爵、入場ください」

 サンドリアが一度もあったことのない父親が会議室に入ってきたが、サンドリアは顔を上げなかった。


「デライン男爵、あなたは学園の職員にサンドリア・シャルム嬢の成績捏造のために金品を数人の教員に贈りましたね」

 ダイモス学園長が尋ねる。

「そ、それは…」

 デライン男爵は口ごもる。

「こちらが証拠の書類と、デリラ・グレーリン子爵令嬢の部屋から押収した装飾品です。見覚えは?」

「私の娘かどうかわからない小娘にかけた温情を仇にされたのだ!」

 デライン男爵は真っ赤になって唸るように言った。


 リーディングとダイモスは顔を見合わせた。

「もうけっこうです」

 そこへ文部大臣のシュミット・マリアーニ伯爵が立ち上がって告げた。

「贈賄は疑いようがありません。王家が管理し運営する王立学園で賄賂を使うことは断じて許せるものではありません。追って沙汰があるまで自宅で謹慎するように」

 デライン男爵は近衛兵に連行されて行った。


 部大臣のシュミット・マリアーニ伯爵が立ち上がって告げた。

「今後は全ての不正を暴き、処分を下します」


 サンドリアは泣き叫んだ。


「あたしだけ責めるなんてひどいわ!!」


 リーディングが静かに告げる。

「あなただけではありません。不正を行う者全てに罰が下されるのです」

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