第14話:だって知らなかったんだもん!
デーティアは二人の頭を抱き、優しく囁いた。
「どこに行ってもいつになっても、あんた達が助けを求めれば飛んでいくよ」
そしてにやっと笑った。
「もちろんジル、あんたもね」
そして右手をひらひらさせて言った。
「あたしは身勝手で身贔屓なのさ」
***
週はじめ、全生徒が受けた抜き打ち試験の結果は、王室から派遣された学者たちによって念入りに採点された。学園の教員達は、教員寮から出ることを禁じられた。
一限目は各学年学力試験、その後は午後まで使って全員にマナーの試験が行われた。
試験官も王室が派遣した者達で、相応の基本的な試験だった。
そして査問会当日、第一会議室に関係者が揃った。
王子ジルリア、ダルア侯爵令嬢ライラ、サンドリア・シャルム。
それぞれ護衛二人に守られており、席は離されている。
会議室の上座には学園長のジョサイア・ダイモスと副学園長のエリアス・リーディングが座する。その両脇には学園内でみかけない男が四人、宰相のライオネル・エンダル侯爵、公安大臣のイリヤ・サンダーン伯爵、文部大臣のシュミット・マリアーニ伯爵、治安大臣のブライアン・アンダン侯爵がいる。
他に数人の書記官達。
「では、まず個別に話を伺います。王子殿下」
学園長のジョサイア・ダイモスが切り出す。
「はい」
ジルリアが立ち上がった。
「あなたはご自分のハンカチを親愛の情をもって、サンドリア・シャルム嬢へ贈りましたか」
「いいえ」
きっぱりとジルリアは答えた。
「ハンカチの心当たりはありますか?」
「はい。入学式の後で落ちていた女性もののハンカチを、近くにいた女生徒に渡しました」
「その女性とはサンドリア・シャルム嬢で間違いはございませんか」
「その女生徒が誰であるか、当時の私は知りませんでした。突然名を聞くことは失礼ですから、ハンカチを渡して去りました」
「では親愛表現のハンカチではないのですね」
「違います」
「次にライラ・ダルア侯爵令嬢」
副学園長のエリアス・リーディングがライラを呼ぶとライラはしゃんと立ち上がった。肩口で切りそろえられた髪がサラっと揺れた。それをジルリアは賞賛の目で見ていた。
「あなたはこのハンカチをご自分のものだと主張して、サンドリア・シャルム嬢に返還を要求していたことに間違いはございませんか」
レースのハンカチを掲げて、リーディングが尋ねる。
「はい。わたくしのハンカチであり、何度も返還をお願いしておりました」
リーディングはハンカチの一点を指し
「確かにダルア侯爵家の家紋です」
と言った。
「ではサンドリア・シャルム嬢」
リーディングがサンドリアに顔を向ける。
サンドリアはびくっと肩を揺らしたが立ち上がりはしなかった。
「サンドリア・シャルム嬢」
静かに繰り返す。
「起立してください」
サンドリアはしぶしぶといった態度で立ち上がったが、椅子が床を擦ってギィと耳障りな音を立てた。
「あなたはこれをジルリア王子殿下に求婚の証にいただいたと吹聴していましたね」
無言のサンドリア。
「どうなのですか」
サンドリアは無言を通す。
リーディングは軽く首を振り、学園長のダイモスを見た。ダイモスは頷き言った。
「では証人を呼びましょう。この証人は乱闘の現場も見ていた者達です」
「キャメロン・サンダース伯爵令嬢、シシリア・ロンダム子爵令嬢、アイリス・エンドロン嬢、カミーユ・ミルドレッド嬢、こちらへ」
開け放たれた別室のドアか四人の女生徒が現れた。
「どうですか?皆さんはサンドリア・シャルム嬢が王子殿下から求婚されたと聞きましたか」
「はい」
異口同音の返事が返る。
「ハンカチの交換はごく親しい未婚の男女の親愛表現です。多くの場合は婚約者同士が行う者で、求婚の儀式ではありません」
リーディングは言う。
「サンドリア・シャルム嬢、なぜ不確かな知識で王子殿下から求婚されたと吹聴したのですか」
「…って…」
サンドリアは小さな声でなにか言った。
「聞こえるようにおっしゃってください」
ダイモス学園長が迫る。
サンドリアは叫んだ。
「だって知らなかったんだもん!」
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