第13話:あたしは身勝手で身贔屓なのさ
サンドリアは叫んだ。
「愛があれば身分差なんて!!」
「愛?」
今まで黙って見守っていたデーディアが笑いを滲ませて言う。
皮肉に満ちた眼差しをサンドリアに向け、右手をひらひらさせて問うた。
「どこに愛があるのかしら?」
「あたし達、愛し合っているんです!」
サンドリアは叫ぶ。
「あたし達って誰と誰かしら?」
意地悪く笑いながらデーティアが尋ねる。
「あたしとジルリア様です!」
「そんな覚えはないな」
突然、衝立の影からジルリアが現れた。
「私は君に好意を持っていないし、名を呼ぶことも許した覚えはない」
ジルリアが冷たく言い放つ。
「あ…あ…」
突然のことにサンドリアは口をはくはくとさせるばかりだ。
「君に渡したハンカチは求婚ではない。落とし物だと思ったんだ」
ジルリアがずばっと切り込む。
「あのハンカチはライラ嬢のものであるとわかった。返してもらおうか」
迫るジルリアにサンドリアは泣いて床に座り込んだ。
「いや!いやよ!!」
ああ、もうしょうがないね。デーティアは舌打ちをどうにか堪えた。
「返していただきますわ。査問会に提出しなくては」
デーティアがすっと左手の掌を上に腕を伸ばし手招くと、サンドリアのドレスのポケットからハンカチが浮かんで引き寄せられた。
「こちらが証拠品です」
デーティアが言うと、ジルリアが出てきた衝立から副学長のエリアス・リーディングが出てきた。
「お預かりいたします」
そしてサンドリアに向かって言い放った。
「この家紋はダルア侯爵家のもので間違いありません。そしてあなたの王族に対するマナーを見ると、報告の通り不正を疑わざるをえません」
ジルリア達に向かい
「報告書にある教職員全員を査問会まで学園の教授寮の部屋に軟禁いたします」
報告書とはジルリアの父の王太子フィリップが命じて探らせた教職員の動向を調べたものだ。
調査では、貴族科では数人、庶民科ではかなりの人数が不正に関わっていたことがわかった。
特に庶民科では、修めてもいない学科の点数を上乗せしているものや、実力に関わらず待遇差があり、賄賂の有る無しの可能性が濃厚だった。
もちろんグレーリン子爵令嬢はその最たるものだ。
彼女はかなりの額の賄賂を受け取っていたどころか、祖母の代からマナー講師の職を賄賂で得ていた。彼女の推薦状は金品で買ったものだった。
デーティアが学園にいたころのグレーリン子爵夫人はその叔母からそれを受け継ぎ、さらに姪、そして現在の孫のグレーリン子爵令嬢デリラへと移っていた。長年グレーリン子爵家の行き遅れの娘が学園のマナー講師の座に就いていたのだ。
そして彼女の体罰も明らかになっていた。
「サンドリア・シャルム嬢」
エリアス・リーディングが冷たく言い放つ。
「あなたも寮の自室で謹慎しなさい」
サンドリアは蒼白な顔のまま、王女達の護衛人の女性騎士に両腕を固められて連れ去られて行った。
「王子殿下、並びに王女殿下」
エリアス・リーディングが控える。
「この度はお手数をおかけした上、長年難航していたわが校の不正を暴いてくださり感謝に耐えません」
「いや」
ジルリアは言った。
「今の学園長も副学園長のあなたも、不正に関与していないことをありがたく思う。これについて調査していた報告書は大変役に立った」
「恐れ多いことでございます」
エリアス・リーディングが恐縮する。
「一介の教員の身では、高位の貴族を調査することがままならず、長年の腐敗を根絶できませんでした」
「王立学園の責任は王家にある。こちらこそ長年気づきもしなかったことを詫びたい」
「恐れ入ります」
エリアス・リーディングは男爵家の三男、学長のジョサイア・ダイモスは子爵次男であり、大学科から研究科へ進学したまま各々の研究を続けていた学者で、象牙の塔の住人だった。そのため世事に疎いながらも、不正に気付き調査を進めていたことは賞賛に値する。
エリアス・リーディングがサロンを立つと、一同の力が抜けほっとした面持ちになった。
デーティアは三人にハーブティーを入れて、クッキーを供した。
「ああ、おばあさまのアニスシードのクッキーだわ」
嬉しそうにアンジェリーナが言う。
「ハーブティーはカモミールだわ」
フランシーヌも嬉しそうだ。
「よくできたね、ジルリア。ご褒美をあげよう」
デーティアは微笑み、レーズン入りのヌガーをジルリアの口に押し込んだ。
ジルリアは少し赤くなり、
「おばあさま、私はもう子供ではありませんよ」
と抗議したが、目はデーティアが持つ皿のヌガーを見ていた。
「そうお言いでないよ。婚約者が決まればそうそうこんな風にはできないからね」
「いいえ、おばあさまは一生やると思います」
ジルリアの言葉にアンジェリーナとフランシーヌが笑う。
「わたくしはいつまでもおばあさまに甘えたいわ。ダンドリオ侯爵家に嫁いでも、たまには会いに来てくださるでしょう?」
フランシーヌが甘える。
「わたくしはフィランジェ王国へ行ってしまうから…」
少し俯いてアンジェリーナが言う。
デーティアは二人の頭を抱き、優しく囁いた。
「どこに行ってもいつになっても、あんた達が助けを求めれば飛んでいくよ」
そしてにやっと笑った。
「もちろんジル、あんたもね」
そして右手をひらひらさせて言った。
「あたしは身勝手で身贔屓なのさ」
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