第5話:人生に退屈は禁物さ
何事においても自分のいいように解釈する性質で、家庭教師は学園入学に当たって国法も教えたが、サンドリアはお伽話やロマンス小説のように「愛があれば身分の差なんて」と頑なに思い込んでいた。
そうよ、愛があれば身分の差なんて乗り越えられるわ。
***
「それじゃあ、アンジーにフラニー」
デーティアが切り出す。
「あんた達はライラに会って話を聞く算段をつけておくれ。あのハンカチの意味も探っておくれ」
「ビーも手伝う」
ベアトリスがデーティアのスカートを掴む。
「そうだねえ、でもビーはすり寄ってくるサンドリアが気味悪いんだろ?」
「大丈夫。お手伝いするわ。サンドリア嬢をおだてて気持ち良くさせて、色々話させちゃえばいいんでしょ?」
「おやおや、できるのかい?」
ベアトリスはアンジェリーナとフランシーヌの方を向いて言った。
「お姉様達をちょっと悪者にしちゃうわ」
アンジェリーナとフランシーヌが微笑む。
「わたくし達をどうするの?」
「どんな悪者?」
「あのね」
可愛く小首を傾げてベアトリスが続ける。
「お姉様達があんまりかまってくれなくて寂しい。わたくし、邪魔ものなんだわとか言っちゃうの」
くすくすと笑う。
「それで、お姉様って呼んでサンドリア嬢が、周りや自分をどう思っているのか聞きだすの」
輝くような笑顔でベアトリスが腹黒いことを言うので、デーティアは思わず声を上げて笑ってしまった。
「あたしは勘違いサンドリアを突いて、周囲からも情報を集めることにするよ」
デーティアはにやにや笑う。
最初の出会いであれだけのことをやったんだからね。少なくともサンドリア側ではないと印象づけた。ライラ側や他の者達から情報を集めやすいだろう。
それに…
あの勘違い娘をちくちくと上品にいびって、辱められ婚約者候補から一時的とは言え下されたライラの仇をとるのは楽しいだろう。
「おばあさま」
ジルリアが真面目な顔で言う。
「お伽話の魔女が意地悪に描かれているのかがわかりました。きっとおばあさまのような方が多いのでしょう」
「へえ」
デーティアはにやにや笑いながらジルリアの片方の頬を軽く摘まむ。
「どういう意味だい?」
「おばあさまは今、とても悪い笑顔でいらっしゃいます。大方、サンドリア嬢をどう苛めようか考えていらっしゃるのでしょう」
デーティアは笑った。
「本当の意地悪を教えてあげるんだよ。いい人生勉強じゃないか」
「私はそんな人生勉強は遠慮したいです」
デーティアは右手をひらひらと振った。
「何をお言いかと思えば。そうならないように精進するんだね。それに」
にやっと笑ってジルリアの鼻先に指を突きつけて振る。
「王子様?あなたの協力が必要ですのよ。心を強く持って冷たい態度をとってくださいませね?」
「もちろんです」
ジルリアは毅然として言い切った。
「そうこなくっちゃ。ライラ嬢にいいとこ見せなきゃね。好きな女性はちゃんと守っておやり。口説くのはその後だよ」
「おばあさま!!」
ジルリアは顔を真っ赤にして言う。
「だから魔女は意地悪だと描かれるのです!」
デーティアの右手がひらひらする。
「魔女の中でもあたしは長い時を生きるからね。人生に退屈は禁物さ」
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