敵対組織

 作戦の失敗が組織に伝えられ、相手組織に存在する能力者のことも報告した。

 詳細は分かっていないが、相手が言っていたテレパスという言葉から察するに、精神に作用する能力者のようだ。

 全ての構成員が作戦から撤退し、各地のアジトへと散っていった。


「よく生きて帰ってきてくれた、今回の失敗は残念だが、大きな被害が出る前に作戦を中止できたのはよかった」

「たまたまです……相手が油断していたのと、私の慢心が招いた結果です。如何様にも罰を」

「罰か……、今回は完全に想定外だった。能力者はこちらでほとんど取り込んでいたと思っていたが、どうやらまだ見ぬ能力者が各地に眠っていることだろう。その知見を得ただけでもよかったと思う」


 私を勧誘してくれた幹部と会話を交わす。

 今回の出来事は本当に紙一重だった。中野が助けてくれなければ私は処理され、作戦は大失敗、組織は壊滅していただろう。


「あの、助けてくれた男性の安否はどうですか」

「分からない、今は調査員を派遣できる状況でもない、何、死亡の噂が流れていないんだ。きっと無事だろう」

「そうですね……」


 あの場では警察の追求から逃れるために逃げるしかなかった。あの時生きていたけど、もしかしたら死んでいるかもしれない。


 あのケガでは大学に来ているかも分からない。不審がられないためにも、会いに行くことは出来ない。そもそもどの病院かも分かっていないのだ。そんなに必死になって情報を集めることも出来ない。


 出来ない理由ばかりが思いつき、悔しくて涙が流れる。ただ祈ることしかできなかった。




 私は足のケガを仲間に治してもらい、大学へは三日後に向かった。あまり間を空けていると不審がられる可能性がある。どこから監視されているか分からない、今回のことでそれを痛感した。しかし普通の日常を送らなければそれはそれで不審である。目をつけられないためのカモフラージュは必須だ。


 大学に行くが教室の前の席に中野の姿はない。


(やっぱり重傷なのね)


 真面目な彼が授業を欠かすことはなかったはず。

 私はどうすればいいのか分からないぐちゃぐちゃな感情を必死に抑えようとしていた。


(早く来てよ、私がまだ魅了させてないでしょ)




 後日、組織から国が秘密裏に能力者を集め、対抗する組織を作っているという話を聞かされた。この前の組織が行おうとしていた作戦が決定的だったらしく、政府と繋がりの強い者たちによって結成されるとのこと。いわゆる正義の組織といってもいい。


 何が正義で何が悪か、決めるのは勝利したものだ。今の私達は悪だ。人を操り人を騙す。法律に則っていない行為だ。そもそも超能力に対応した法律などないのだが。

 もし国が能力者の存在を明らかにして、保護という名の監視を始めてしまえば、私達は存在することすら難しくなる。しかし今のところその気配はないらしい。


「組織の詳細はまだ掴めていないが、どうやら複数の能力者を取り込んでいるようだ。これまで以上に難しい任務が続くと思うが、どうか、無事に、そして成果をあげてくれ」


 私は通信対策のされたタブレットからボスの言葉を聞く。私達は負けられない、この国に蔓延る悪のすべてを暴くまで、そしてその抑止力として存在し続けるために。



 相手の組織の情報が徐々に集まってくる。先日私の魅了を看破したテレパスの男も存在しているようだ。他にも何人かの能力者の情報が開示され、その対策に皆が日々頭を悩ませている。

 同系統の能力者がいる場合、その弱点や傾向などが掴めるが、未知の能力者に対応するには、誰が適任か、一番の議題はそれだった。


「私にやらせてください」


 私は幹部に直談判をし、一番危険な任務への参加を希望した。


「確かに君は変装のプロで、私達でも見間違うほど別人へと変化出来る。複数人を相手に接触を図る場合、姿がバレていないことはアドバンテージになるだろう。それい魅了の力、相手がテレパスだとしても己にかかった魅了に気付くことがなければ対処が可能だろう。だがいいのか? あくまで可能性の話でしかないし、何より危険だ。腕っぷしも強くない君には荷が重いと思うのだが」

「だからこそです、私以上の適任はいません。たとえ危険があろうとも、もう二度とあんな思いはしたくない、これは意地でもあります」

「……君が望む以上私が拒否することは出来ない。最終的な決定はボスが下すが、上に掛け合ってみよう」

「ありがとうございます」


 私は幹部に別れをつげ、アジトを後にする。

 そう、二度とあんな思いはしたくない。守れるものは自分の手で守るのだ。守られるのはもう嫌だ。



 次の日も大学へ向かう。

 いつもつい見てしまう前の席に、頭に包帯を巻いた中野の姿があった。

 

(よかった…無事だったのね)


 あまり長くない入院期間を考えると、大きなけがにはならなかったようだ。

 痛々しい頭の包帯を見るに、頭を打ったため精密検査で時間を取られたのだろう。

 私が涙目になりながら相手を後ろから見ていると、ふいに中野がこちらに振り向いた。

 一瞬目と目があう。私は急いで視線を逸らし、友人へと話しかけ何もないように装う。


 不自然に目を逸らしたので何か思われていないか不安になり、友人との話をしつつ横目で中野を確認する。彼はいつも通り前を見て、教授の授業を真面目に聞いている。よかった、バレてないわ。





 いくらかの季節が過ぎた。正義の組織が正式に結成されると聞いたのは、私が二十歳になるころだった。まだ不明な点は多いが、相手の重要な構成員とその概要がある程度まとまってきた。

 そんな中、私に任務が回ってきた。相手能力者への接触とその排除、または篭絡せよ。いつも通り、私の得意分野だ。


「最初にこの任務を君に託すのは、その相手が恐らく最大の障害足りえるからだ。彼の能力は、超能力の完全無効化、彼が前線に出た場合、最悪こちらは何もできず相手が好き放題能力が使えるという事態に陥りかねない。その為に、全力をもって彼を堕としてもらいたい」

「能力無効化、ということは魅了は使えないですよね。純粋な魅力で勝負しろっていうことですか」

「どこまで能力を無効化出来るかは、こちらも把握していない。相手に察知される可能性も考慮して能力の使用はここぞという時か、極力使わないで作戦を遂行してほしい。それでターゲットだが、こいつだ」


 私は今回の対象が書かれたタブレット端末を受け取る。

 そこには見知った顔、中野正義と書かれた彼の姿があった。

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