第7話

扉を開ける。少し冷えた狭い部屋、窓の夕日が紅く満たす。その光の中を写真が揺れる。開いた窓から金木犀。風とともに花と香りが吹き込む。

「綺麗だね。」

いつからいたのか、気付けば彼女も来ていた。

「校舎裏の金木犀。あの木の下、行ったことある?まるでね、星の木みたい。あたり一面、星の花。」

「後で行ってみる。」

「うん、きっと気に入るよ。」

少し冷える十月の夕暮れ、晴れて写真部が始動した。正確には同好会だけど。でも羽月は写真部って言い張る。羽月もあれ以来、我慢をしなくなった。勿論、いい意味で。

「そういえば、なんでカメラ好きなんだ?」

お互い余裕もできて聞いてみる

「突然だね。」

羽月は少し考え込む。

「これ、お父さんからもらったの。それで好きなのは……これだって言うのを、四角く切り取るのが、なんか、楽しいの……たぶんそんな感じ。」

「へぇ……」

「……直感をこう、形にできるじゃん。」

「……」

「湊一はどうなの?!」

上手く答えられなくて紅くなる羽月。

「写真を撮る時、光とか角度とか色々考える、あの感じが楽しい。あと、いつもの散歩道での発見とか、面白いから。だから、好き。」

「……なんか、負けた。」

別に好きな理由に勝ちも負けもないけど。まぁ、でも楽しそうならなんでもいいや。今を楽しむ、羽月のそういうところが……

「行こ、湊一?」

「あぁ。」


金木犀の下、カメラを向ける。

「なんで……」

レンズの先、羽月は頬を赤らめる。

「撮りたいから。」

そう、純粋に撮りたかった。今を輝く彼女を。

「ねぇ。」

「何?」

「私ね。」

「……」

「湊一のことが……」

「……」

カメラを下げ、歩み寄る。

「す――っ!?」

こっちが先に言いたかった。言わせたくない。

言葉じゃ間に合わなくて……

それは三秒もしなかった。

初めての感覚。なんか背徳感。

羽月も真っ赤。

恥ずかしさをごまかしたくて、

「よろしく、羽月。」

カメラを向ける。

「よろしく、湊一。」

彼女も向ける。

さぁ、ここからだ。

今日が最初の活動だ。

今を輝く彼女を、羽月を、焼き付けよう。

この目で、このカメラで、ずっと。

星の木の下、星の花の中。

シャッターの音が二つ。

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白飛びするほど輝く君を、切り取りたい 短夜 @abelia_ar

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