破 その4

それから――。


 早乙女クンが預かってもらう替わりに。と言う事で暫らくの間の餌やトイレシートを買いに行ったのを動物病院で待つ事になった。


 その際に自然な流れで彼と連絡先を交換したのが、何と言うか……本当になんでこうなったのか不思議な気分だ。




「転校して心配だったけど、君みたいな子とすぐにお友達になれたみたいで安心したよ。しかしまさか最初に連れてきた友達が女の子だとは。マリアもなかなか隅に置けないな」


 お父さんが穏やかにそう言うと、目の前にコーヒーが入ったカップを置いてくれる。


 否定したくなったけど、流石に相手が相手だから愛想笑いしておく事にする。




「狂戦士は妻の方の血筋なんだけどね。妻もご両親も御伽噺くらいにしか信じてなかったからマリアが産まれた時は本当に驚いてたよ」


 アタシは、突然の核心の告白だったから思わず少しコーヒーを口から溢してしまった。




「狂戦士の症状はどうやらとても強い呪いの一種らしくてね。それを解くのは他者との繋がりじゃないかと過去のご先祖様達が書物を残してくれていたんだ。


 私も妻も必死でマリアを普通に過ごさせてあげたくて色々調べたんだけどね。


 全く……手も足も出ない」


 お父さんはハハハと弱弱しく笑う。


「だけど、こうやって同年代のお友達と普通の学生生活が送れている。


 愛生さん。どうかこれからもマリアと仲良くしてやってね?


 見た目が……アレだけど、とても優しい子なんだよ」




 なんだか……。


 なんだか、申し訳なくなってきた。だって、アタシは彼が悪の権化だと確信してたから。




 そうやって困っていると有難い事に、早乙女クンが両手にいっぱい荷物を抱えて戻って来てくれた。


「名前、決めないとね」


 家までの帰り道。後ろを沢山の荷物を持った早乙女クンに振り返って言う。


「名前かぁ、そうだなあ。愛生さん、そういうの上手だったりしない? 」


 上手って……。


「名づけに上手とかあるの? 」


 そんな事を言ってるとアタシの家に着く。




「うわぁ……すごい大きなお屋敷……」そう言って顔を挙げるとコロンコロンとペットフードが彼の両手から落ちる。まぁ、建物の半分以上は道場なんだけどね。


「じゃ、じゃあボクはここで」彼が突然そう言って荷物を降ろそうとするから、アタシは仔犬を抱き上げたまま「ええ‼ 」と大声を出してしまった。


「そんな、大荷物玄関先に置かれても困るよ。ほら、部屋までお願い」


 後になって気付いたが、早乙女クンは女の子のうちに上がる事に配慮してたんだな。因みにその時にアタシもよくあんな部屋に男の子を上げてしまったと後悔した。




「よしっと。とりあえず蚤取りシャンプーしなきゃね」


 早乙女クンがトイレやゲージの設置をしてくれてる間に、アタシはラフな服に着替えた。




「あ、あ、じゃ、じゃあボクはそろそろおいとまするね? 」


 慌てる様に早乙女クンが立ち上がる。


「え? そんな慌てないでもお茶くらい出すよ? 」


 アタシがそう言うと、彼はもじもじ……もといガチャガチャしだす。


「でも、男が娘さんの部屋に入ったと知ったら親御さん、心配しないかなぁ……」


 アタシは、キョトンと瞳を丸くしたことだろう。こいつは何を心配してるのかと。


「大丈夫だよ、お父さんは晩ご飯までは道場で門下生と稽古してるし。お母さんはアタシが小学生の時に死んじゃってるから」


 ガチャっと顔が挙がって、その鉄仮面越しに目が合った……気がする。


「そうだ、早乙女クンのお母さんはどんな人? 」


 実は、何とか確認しようと画策していたが、我ながらいいタイミングだったと思う。


「え? え?? ふ、普通の人だと思うけどな」彼は慌てながら鎧の間からスマホを取り出した。おいおい。そこそうなっとんかい。


 彼の横から首を伸ばして操作してるスマホを覗く。


「えっ⁉ 」付く筈のない濁音が付きそうな程その声が出た。


 だって、そこには先の男性と余りにも似つかわしい真っ白なフランス人形かと思う別次元の美人が写っていたから。


 アタシは、思わず眉間に皺を次々と刻みながらそれを凝視していた。


「あ、愛生さん? 」


 その時、彼の声で我にかえる。




「あっ」


 それと同時に、抱き抱えていた仔犬がピョンっと飛び降りた。


「こら、待て」それでアタシ達2人が同時に慌てて追いかける。弱ってる話はどうしたのか、この子は元気にスルスルとアタシ達の間を抜けていく。




「捕まえた~この悪チビめ~」


 丁度早乙女クンと挟み撃ちにする形でアタシは仔犬を抱き上げた。


「? なに? 早乙女クン」


 そんなアタシをぽかーんと見てくる彼にアタシは疑問を抱いた。


「ごごごごごごごごごご、ごめん‼


 やややややっぱりボクは、これでお邪魔するよ‼ 」


 そして、突然そこ等じゅうにぶつかりながら慌てる様に飛び出ていった。




「??? 」更に疑問は増える。


 後に解答が出るんだけど、ここで出せるヒントはアタシが着替えてたシャツが濡れてもいい襤褸シャツだったて事。

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