第7話

 お医者様がお帰りになられた後、足早に先程の日記を取りに行って、一心に日記を読み直した。


 生まれた日、危機に陥る時期、病にかかる時期。


きっと、そう言うことなのだろうと、私の直感がそう告げる。


――つが


 私の母はきっと、美さんとつがいになっているのだ。母が生まれたから、美さんも生まれた。

母の命が危うくなったから、美さんも危うくなった。そして、今のように、母が病にかかったから、美さんも病にかかった。要するに、母か美さんのどちらかの病が治れば、2人とも助かるのだ。私は一目散に母の所へ行って、その事を伝えた。


「だからね、お母様、どちらかの病が治ればいいのよ。そうすれば、どちらとも治る。」


「そう、あの日記を見たのね。勝手に見るなんて、悪い子。」


そういう母は、幼子おさなごを見るような目で私を見た。


「だ、だからね、私、美さんのうでの一部を切り落としたらいいと思うの。お医者様も言ってたわ。『枝を切れば治るやもしれない』って。そうすれば、美さんの病気も治って、お母様も治るでしょう?」


そう、一心に話したが、しかし、母は首を振った。


「いいえ、やめなさい。意味が無いの。私が先に治らなければ、意味が、ないの。」


母は自分に言い聞かせるように、繰り返し呟いて、きっと口を結んだ。


「翠は、私と桜の木、美が、番いだと気づいたのね。でもね、翠。私が考えたことなのだけれどね、先に病にかかった方が治らないと、もう一人は治ることができないのよ。日記もそうだったでしょう。私が治ったから、美も無事だった。そして、今は私が先に病にかかったから、私が治らなければ意味がない。病膏肓やまいこうこうるとは、こういうことを言うのね。」


この時、美さんの風に靡かれる音が、妙に大きく聞こえてならなかった。

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