第3話 動き続ける君
「ブーー」
俺(水卜雄大)は、グループチャットに送信されたメッセージを見て、今日からのアプローチで透馬を立ち直らせることを強く心に誓った。そのグループチャットの名前は“透馬お助け隊”というもので俺と別の企業に勤めている鈴木真人・京美玲の三人で構成されていた。俺らがこんなダサい名前のグループチャットを使っている理由は、数日前に遡る。
〇動き続ける者たち ―奇跡の出会い如月透馬編―
俺は透馬の人生やり直させちゃおう計画の実行日一週間前に、あるものを家電量販店へ買いに行っていた。それはゲーミング用パソコンとゲーミングチェア、そしてヘッドフォンだ。まさにゲームを始めるための初期装備みたいな感じだが、これを使って透馬を助け出そうとしていた。透馬を立ち直らせようと意気込んだはいいものの、まずはどうにかして透馬に接触する必要があった。そこで以前後輩から透馬の現状を聞いた時、引きこもってただ過ごすのではなく、ゲームをして過ごしているらしいという情報を言っていたことを思い出した。大学時代からあいつはFPSゲームに目がなかった。どうせ今もやっているに違いないと判断し、俺も同じ舞台に上がって透馬に接触するため、初期装備をそろえに来たというわけだ。その先、出会ったとしてどう声をかけるかは全く考えていないのだが…。その日は購入を決めた商品の発送手続きを済ませて、店を後にした。
後日、家電量販店で購入した品々が家に到着した。完全にゲーマーのような部屋を創り上げて、透馬が大学時代によく話していたFPSゲームへログインした。FPSゲームは、四対四のチーム戦で相手のチームを殲滅したほうの勝ちという、至ってシンプルなルールだった。チームは、全ユーザーが集まる“待合所”という場所で三人に声をかけ、その都度変成していくというものだった。俺はその待合所で透馬らしき人物を探したが、ただでさえゲームをプレイしている人数が多いうえ、全員が偽名を使って登録しているため透馬を直接見つけ出すのは至難の業だった。それに現在戦っている最中ということも考えられる。まずは、透馬についての情報を聞き出す方が先決だ。待合所で待っている人に片っ端から声をかけた。しかし、どうやって透馬の情報を聞き出したらいいのかわからなかった。半ば投げやりになっていた俺は、とりあえずゲームを普通にプレイしてみることにした。そもそも、透馬が引きこもりになってからやっているゲームが、このゲームかどうかもわからないわけだが…。いざやってみると、意外と操作が難しかった。敵を狙っても、すぐに狙いがズレてしまう。キャラの体を動かしながら、狙いを定めるためめちゃくちゃ揺れて当たらない。
「どうやって弾当ててんだ…。この人たち…。」
チームを組んでくれた、経験者たちにそんな感想を抱きながらプレイを続けていく。 試合は進み、序盤優勢に思われた俺のチームだったが、最終的には負けてしまった。俺が敗因といってもいいだろう。
「本当にすみませんでした!」
俺はボイスチャットをオンにして、さっそく謝罪をする。
「いいよ。初心者なんだし。勝てなくて当たり前だよ。」
「センスは良かったから、このまま続けてみてー。」
みんな優しすぎて、涙出てくる…。そんなことがありつつ同じメンツでチームを組み、試合を進めているとふと気になる話題が飛び出してきた。
「この前チーム組んだ人、めっちゃうまくなかった?」
「それな。敵倒すの早すぎて、俺らほぼ見てるだけだったよな。」
「なんていう名前の人でした?!」
俺は少し食い気味に聞いてしまった。
「おお…興味あるの?なんて言ったかなー?」
「つっき―。確かつっきーだよ!」
「あー!そんな感じの名前だったなー!」
“つっきー”その名前を聞いた時、俺は大学時代、透馬と初めて会った時の会話を思い出していた。
~六年前~
「初めまして!俺、水卜雄大!よろしく!名前は?」
「僕は如月透馬。よろしく!」
透馬は誰に対しても分け隔てなく優しく、穏やかな雰囲気を纏ったやつだった。
「趣味とかあるの?」
「趣味はゲームかな。FPSゲームとかよくやってるよ?」
「へー。強いの?」
「強いとか弱いとかはよくわかんないけど、結構やってる。」
「そうなんだ。ユーザー名とか決めてんの?ゲームやるときはこれ!みたいな。」
「絶対ってわけではないけど、つっきーっていう名前でやってるよ。」
「如月の月を取って、つっきーか!」
「そんな感じ。よくわかったね。」
「たまたまだよ。」
~現在~
透馬だ!間違いなく、その人物は透馬だ!奇跡が起きた!情報をつかめたことが嬉しかった俺は、チームの人にもう少し情報を聞いてみた。
「その人と会ってみたいです!どんな人なんですか?」
「興味ありそうだね~ 確かこのゲームは夜九時以降にプレイすることが多いって言っていたような気がする。」
“夜九時!”とても貴重な情報をつかんだ俺は夜九時に備えてそこでゲームを切り上げ、もう一度ログインすることにした。
〇動き続ける者たち ―奇跡の出会い京美玲、鈴木真人編―
夜八時五十分。俺は、もう一度ゲームにログインした。待合所に入ってみると、明らかに挙動不審な奴が一人いた。
「何やってんだあいつ?」
不思議がっていると、向こうから話しかけてきた。
「あの!あの!つっきーっていうプレイヤーの人知りませんか?」
「声がでかい。少し落ち着け。」
「あ!ごめんなさい。少し焦っていて。」
「大丈夫だ。それより、そいつがどうかした?」
「そのつっきーっていう人!私の幼馴染なんです!今その人を探してるんです!」
「は?」
俺は一瞬固まった。意味が理解できなかった。“幼馴染…?”こいつ、もしかして透馬が大学時代に話していた事故に遭ったっていう幼馴染か?俺は思い切って質問してみることにした。
「もしかしてお前が探してるのって、“如月透馬”だったりする?」
「え?なんでその名前を?」
「実は俺も探しているんだ。透馬のこと。」
「その呼び方。あなたも透馬と親しい仲なんですか?」
「俺の名前は、水卜雄大。透馬とは同じ大学の同級生だった。俺は透馬と一緒に熱海へ旅行に行っている最中、事故に巻き込まれて二年間眠っていた。」
「あなたがあの…。」
「お?その感じ、俺を知ってるっぽいな。俺もそこそこ有名人になったのか?」
「透馬のお父さんから聞きました。私の名前は京美玲です。あなたも透馬を探しているっていうことは、引きこもりになった透馬を立ち直らせようとしているってことですか?」
「ああ。その通りだ。」
俺のボケが綺麗にスルーされたことは、あえて触れないで話を進める。
「じゃあ、一緒に探しましょう。今チャットのリンク送るんで。」
「チャット?なんでそんなものがいる?」
「もし透馬を見つけたときに、合流するでしょ?」
「なるほど。」
俺はグループチャットに入り、人数が三人いることを不思議に思った。
「なあこのグループチャット、メンバー三人になってるけどあともう一人は誰なんだ?」
「あともう一人は、鈴木真人。高校時代からの透馬の同級生で、私たちと同じく意識不明の重体になってしまった一人です。彼も、透馬を立ち直らせようと努力しています。私たちは、高校時代にお互いのことを知っていたので、チャットを作りました。」
なるほど。そういうことか。これで、透馬を助け出すためのピースがまた一つそろった。
「わかった。明日からはなるべく三人でゲームへログインし、チームもなるべく三人で組むようにしよう。もし透馬を見つけたら、透馬を入れて四人のチームを作れるようにしよう。そこで、透馬を説得する。」
「わかりました。ですが、一つお願いがあります。透馬に私たちの存在は隠して説得しましょう。透馬には私たちのことを気にせず、一人で立ち直ってほしいんです。その方が、今後のためになると思うので。」
確かにそうだ。ここで俺たちが、透馬へ自分たちの存在を明かして上で接触すれば簡単に立ち直らせることはできるだろう。しかし、また俺らの中の一人でも事故に遭えば簡単い今の生活に戻ってしまう。ならば透馬に自分たちの存在を打ち明けず、一人で立ち直ってもらった方がいい。もしまた誰かが事故に遭っても簡単に崩れることはないだろう。
「わかった。そうしよう。」
俺はその条件を承諾し、その日はお開きとなった。
〇サブストーリー 出会うための準備 ―京美玲編―
ゲームで雄大さんと出会う数日前、私はネット通販でFPSゲームをするのに必要な機材を購入していた。
「チェアでしょ?ヘッドフォンでしょ?キーボードは今のままでいっか。金ないし。マウスも…何とかなるだろ!」
透馬のお父さんから、透馬が引きこもりになってからFPSゲームしかしていないという情報をゲットしていたため、透馬と一緒にゲームをプレイして助言をすることができれば、立ち直らせることができるのではないかと考えていた。ゲームのをプレイするには、まず機材をそろえないといけない。そのために必要なものをネット通販で注文した。私は、そこまで真剣にゲームをするわけではないため、全部デザイン重視のかわいいやつにした。透馬がつっきーという名前のアカウントを使っていることは、高校生の時透馬がゲームしているところを見ていたことがあるので知っていた。あとはゲームの中で透馬を見つけるだけだと思っていた時に、高校時代の同級生鈴木真人から連絡がきた。内容は“透馬が引きこもりになってしまっているから、立ち直らせるのを手伝ってほしい”とのこと。どうやら、真人のほうにも引きこもりの件は伝わっているらしく、幼馴染の私にも協力してほしいようだ。軽く承諾の返事をすると、鈴木のほうから作戦と思われるものが送られてきた。考えていた内容は大体私と同じだったらしく、ゲームの中で透馬を見つけて説得するというものだった。私もそのつもりだったが、鈴木は普通に説得しようとしていたため透馬を説得するときに私たちの名前を伏せて説得したい旨を話して、伏せることになった。
後日、ネットで頼んだものが家に届いたため、組立ててゲームを開始した。そして、そのゲームの中で水卜さんと出会うことになる。
〇サブストーリー 出会うための準備 ―鈴木真人編―
俺は透馬が引きこもりになったことを知ってから、どうやって透馬を立ち直らせようか考えていた。俺は透馬が昔からゲーム好きであったことを知っていたため、引きこもり生活では、ゲームをしている可能性が高いと考えていた。しかし、俺一人で調査するには時間がいくらあっても足りないことに薄々気づいていたため、透馬の幼馴染である京美玲に協力を仰ぐことにした。メッセージを送ると京からは、承諾の返事が返ってきた。そこで、さらに透馬を説得する際に自分たちの素性を明かさずに説得したいということも相談された。俺はその内容を承諾し、自分がゲームへログインするためにパソコンやヘッドフォンなど必要なものの準備を始めた。もともと透馬の影響で、必要最低限のグッズはそろっていた。それらをセットして、ゲームへログインする準備も整えた。
ログイン当日、俺と京は二手に分かれて情報収集を進めた。俺が引き続き収集に励んでいると、チャットに一人メンバーが追加されたことに気づいた。
「水卜雄大…?誰だこれ?」
京に聞いてみても、返信がなかったため一旦そのまま放置し情報収集に戻った。
その後京に聞いてみたところ、水卜さんは透馬の大学時代の同級生でかなり仲が良かったそうだ。しかし、透馬といった旅行中に事故に遭ってしまったそうだ。それが原因の一つとなって透馬が引きこもりなってしまったことを知り、助けたいと思っている人だそうだ。
「よくもまあ、こんな人を見つけられるもんだ。」
素直に感心していた。軽くチャットで自己紹介を済ませて、作戦を説明し明日からの行動プランを説明し、その日はそれで終わった。
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