第2話 ハリネズミと一緒

 暗闇の中、大小2つの足音が響く。


 大きいほうの足音の主、高野は、足元の白いハリネズミを見てため息をついた。

「…なぁ、ここ、どこか知っとるんか?」

「キュキュー!」

「俺、お前に着いてってる認識なんやけど、どこ連れていかれるん?」

「キュッ!キューキュー、キュキュ!」

「――わからああぁん!!ハリネズミ語は履修しておりません!!」

「キュー…」

 高野の叫びに、寂し気な声のハリネズミが返事をした。



 ――30分前。

 『ムラサキカガミ』を退けた高野だったが、どうやってこの真っ暗な場所から脱出すれば良いか全く見当がつかず、途方に暮れていた。

 その時、先ほどの白いハリネズミが、「キュキュッ!」と鳴きながら高野の足元を駆け回り、トコトコと歩きだす。

「ちょ、なんやねんお前、急に出てきて急に歩き出すなや!」

「キュー!」

「えぇー…、何?ほんまに何なん…」

「キュー!!」

「あぁもう、わかったわかった!そっち行けっちゅ―ことか?!……これで罠とかやったら笑うしかないなぁ…」

 ハリネズミの後ろを追うように、高野も歩き出す。ハリネズミは時折立ち止まり、左右を見渡してまた進んだ。まるで目的地がわかっているような動きだった。


 そして、歩き続けて今に至る。どこまでも続く闇と、言葉の通じない同行者、己の気が狂うのも時間の問題かと、高野は自嘲的な笑みを浮かべる。


 しかし、暗闇散歩ツアーは唐突に中断された。ハリネズミがピタリと歩みを止め、背中の針を逆立たせ威嚇を始めたのだ。


「ど、どうしたお前?!そこになんかおるんか?」

「ギュー…」

「俺にはなんも見えへんのやけど……、っ!あ、あれ?」

「ギュー!ギギューー!」

「――っな、なんや、これ…」

 何もないと思っていた空間に、突如として灰色の渦が出現した。渦の中心には、一般的な家屋の内装がぼんやりと浮かび上がっている。


 高野は、唖然としながら灰色の渦を見つめた。

「家…?いや、誰の家やねん」

「ギュギュィイイイ!」

「お前、ハリネズミから出たらあかん音鳴っとるぞ」

 高野は針が刺さらないよう、そっとハリネズミを抱き上げ、どうどうと落ち着かせようとした。だがハリネズミはフシュフシュと威嚇を止めることなく、高野は、俺どうすればええんや、と思わず空(真っ黒だが)を仰ぎ見た。


 その時だった。灰色の渦が突然引力を発生させ、容赦なく高野たちを渦の中心へと誘った。

「おっ、わ!ちょ、次はなんやねえええん!!」

「ギュキュキュー!!」

 一人と一匹は、あっという間に渦の中に消え、暗闇には静寂が残った。



 ドン、という音を立てて、高野はフローリングの床に全身を打ち付ける。

「っ、いったぁ…大丈夫かハリネズミ!――ん?ハリネズミ、おらんのか?」

 己の腕の中にいたはずのハリネズミが見当たらず、高野は周囲を見渡した。どうやら一軒家の中にいるようだった。部屋の真ん中に大きな4人掛けの机があり、ここはリビングらしいことが分かる。


「あの子いらないの、だからあっち行けした!」

「なっ?!誰や!」

 突然の声に、高野は驚いて叫ぶ。振り向くとそこには、10歳くらいの男の子が立っていた。


「え…こど、も?」

「子どもじゃないもん!初めまして、キレーなおにーさん!――僕は、『ひとりかくれんぼ』だよ!!」


 ――『ひとりかくれんぼ』攻略開始――

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