崩れゆく世界

和藤ユヒリ

誰だ

 それはいつも通りに放課後に教室で私リヤと友達のサラと話していたときだった。



「最近、怖い事件が多いよね」


「本当にね」


 ここ最近、この町でおかしな事件が多発している。脳も内臓系も正常なはずなのに、精神が壊れているのか、話しかけてもなにも答えてこない。これが完全なる植物状態なのかもしれない。このように、変な状態で見つかる人たちが多発している。よく見つかる。どこでというものはなく、不規則で色々なところだ。1人で見つかる場合はあまりなく、何人かで倒れている。まだニュースでしか見たことはないけれど……。


「新手の殺人事件なのかな」


「うーん。それにしても大量すぎるよね」


「そうね。証拠が何一つも無いと報道されてるのもおかしいよね」


「それにどの被害者にも目撃者がいないのもどういうことなんだろ」


「そうね。怖いよね」


 どうにかして犯人を捕まえようと警察は動いている。学校から事件現場は近くで、犯人も近くにいるのではないかと噂が立っている。


「怖いからこの話やめようよ〜」


「分かったよ」

 

 少し笑って返した。サラは誰にでも優しくて可愛らしい女の子だ。それに対して私は、だいたい塩な対応を取ってしまう捻くれ者だ。



「カイくんがさ、『お弁当一緒に食べない?』って言ってきたんだよね」


「え!まじか!それでどうしたの?」


 カイは私の小学校からの同級生で、仲良いの友達だ。どちらからも話を聞いていると、両思いなのは確定した。まだ告白してないけど、早く告白してしまえと思うよ。


「もちろん、一緒に食べたよ!」


「そうなんね。よかったねぇ」


「リヤも誘えばよかった〜!」


「なんでよ」


「だってさ、カイと仲良いじゃん」


「いや、いいよ」


「今度カイに誘われたら、絶対誘お〜」


「絶対迷惑だから!」


「えぇ〜聞いてみないと分かんないじゃん!」


「いやぁ」


 苦笑いするしかない。カイはサラと2人きりで食べることが重要なんだよとは流石に言えない。


「カイくん、今なにしてんだろ」


「どうせまた机で寝てるんじゃない?」


「じゃあカイくんのところ行こうよ!」


 カイは隣のクラスにいるはずだ。


「いいよ〜。行ってみようか」


 自分たちの教室を出て、隣の教室のドアを開けた。教室には何人かまばらにいる。


「あ、カイくんいた〜!」


 カイが座ってる席のところへすぐさま行って、目の前の空いてる席に座った私は後から遅れて行き、立ってカイのほうへ目を向けている。何かカイの雰囲気がおかしいような気がする。


「なんか変じゃない?」


「うん。どうしたんだろう」

「ねぇ。カイくん?」


 顔を覗き込んで、可愛らしい声でサラは尋ねている。これを見てれば、そりゃモテるわ。


「んん」


 気だるそうにして目をこすりながら、カイは目を覚ました。見てるだけで恥ずかしいから窓の外を見て、わざわざ目線を外している。


「……」


 2人の目が合った瞬間に、サラの体が崩れ落ちた。力が抜けて、腕がだらんとなっている。


「え?どうした!」


 首が机にダラっと落ちていて、明らかに顔色がおかしい。


「ねぇ!サラ返事して!」


 そう言って、肩を揺らしても何も反応がない。


「カイ。何したんだお前!」


 つい、カイのほうを見てしまった。サラと同じで、目を合わせてしまった。なんだあの目は……。全部白くて、黒目がない……。その瞬間に、意識が途絶えた。


 ぱちっと目が覚めた。真っ白な世界で、何もない。なんだここは……。前から人影が近づいてくる。


「は?普通に立ってやがる」


 この声はカイだ。


「こいつらと同じように、普通なら意識を失うままのはずなんだが……」

「まあすぐに2人と同じところへ連れて行ってやるよ」


 いつものカイではない。誰なんだ。容姿はカイそのままだ。カイを睨むしかできない。サラがどこにいるのか探す余裕はない。


「どうした?この世界が不思議か?律儀に答えてやろう。ここはカイの精神世界だ。お前ら2人をカイの世界に連れてきてやったんだ」

「簡単に言うとカイの精神を乗っ取った」


 ニヤッとした顔で言ってきた。


「誰なんだお前は。外見だけカイを装った、誰なんだ」


「さぁな。俺は俺だ」

「意識があるやつには消えてもらわないとな」

「すぐに殺してやる」


 真っ白だった世界が一気に真っ黒になった。ここはカイの精神世界だから、カイの気持ちが反映されるのだろう。


 手に何も持っていなかったのに、ビキビキ音を立てて、銃が出てきた。


「は?それズルだろ!」

 ダッシュで逃げる。私には何も武器がないから、背を向けて逃げるしかできない。


バァン!左足に当たった。


「うっ。痛ってぇ」


 その場で崩れるようにして倒れた。丸腰な私になにも対抗することはできない。


「そりゃ弱いよな。つまんねーの。さっきまで威勢張ってたくせに」


 カイの顔をした敵がどんどん近づいてくる。


「カイ。幼い頃から遊んで、楽しかった思い出しかないよ。私がカイを泣かせたこともあったね。けど、精神を誰かに乗っ取られるようなやわな奴ではなかったはずだよ。お前の好きなサラと幼馴染が足を撃たれてピンチなんだ。頼むから助けに来い」


「なにをボソボソ言ってんだ!お前はもう死ぬんだよ!」


 頭に銃口を当ててきた。私は不敵な笑みを浮かべ、

「そんな弾には当たらない」


バァン!撃たれた弾は瞬間的に消えた。


「は?どうなってんだ!」


 連続で撃ってきた。しかし、全て当たる前に消える。


「ふっ。よくやったカイ」

「カイを操っている敵よ。カイの精神力をなめるのはよくないよ」


「弱ってたはずだろ!なにでしゃばってんだ!」


 そこには、本物のカイが私の後ろから出てきた。後ろのオーラが黒く燃えている。ここにいる誰よりも一番怖いな。


「そうこなくっちゃ」


 私の横に来て、目が合った。


「リアはいつも冷静で、頼りになるな。ありがとう」


 足をやられて座っている私の肩に手を置いた。


「サラを攫ったときの心は9:1で俺の精神が勝っていたはずだ!どこからそんな精神力が現れたんだ!」


「そりゃリアを連れてきたことだろうな」


「こんな頼りになる人はいない」


 私を見ながら自信満々に言ってきた。


「よく言うね」

「じゃあ今ならなんとかなりそうだね」


「あぁ。頼りにしてるぜ。リア」


「もちろん」


「くっそ!ふざけんな!!」

「こんな皮脱いでやる」


 カイの顔が崩れて、真っ青な宇宙人のような気持ち悪い人間ではない何かが、出てきた。


「うわっ。なんだこいつ」


「こんなやつに支配されてたのか俺は」


「仲良くしやがって、それに加えてこんな女もいるとは」


 サラのほうを見て睨んでいる。


「リアを殺したあとにサラを殺そうとしていたが、サラを先に殺してやる!!」


 サラは敵の後ろ側の椅子に座って、うなだれて意識を失ったままだ。敵は私たちに背を向けてサラの座っているところへ走って向かう。いつのまにかナイフを作っていた敵は心臓めがけて、刺そうと上から思いっきり振りかぶった。


「やめろー!!」


 カイも両手にリ銃をビキビキと音を立てて、作った。精神を支配してる者たちは想像すると作れるらしい。バァン!と撃って、何発も連続で撃つ。


 その瞬間敵は、全てが当たる前に弾を消した。


 銃を作る前に、カイは私に弓矢を作り出して渡してくれた。座りながらだが、敵めがけて放っていた。敵が弾を全て消したあとに、矢が到達した。銃声が大きく、弓で射る音は聞こえなかった。


 背中を向けていた敵は、音で全てを判断して一つずつ撃った弾を消していた。

私は足を撃たれていて、なにもしてこないだろうと油断して、警戒していなかったのだろう。敵は振り返って、矢に気づいた。しかしそれと同時に矢は頭に当たった。


「くっそお」


 敵はあっさりと、泡のように弾けていなくなった。死ぬ間際の最後の力を振り絞って、上から大量のナイフのようなものを降らせてきた。尋常じゃないスピードだ。


「やっば!」


 カイでも全てを消すことは不可能なのか。これはもう死ぬのか……。頭を抱えた。


 ん?あれ。死んでない。顔を上げると最初の真っ白な世界に戻っている。見渡すと、カイがサラを守るように頭からギュッと抱きしめるように抱えていた。


「カイ!あの大量のナイフはどうなったんだ!」


「全部消した」


「まじか。お前すごいな」


 私の足を見たら、治っていた。2人の元に、走って駆け寄った。サラは困惑しているようだ。


「え!なにここ!真っ白だよ!!」


 ずっと眠っていたから、何も知らないのも当然だ。


「はぁ。サラが生きててよかった〜」


 カイは項垂れるように膝から落ちた。


「なんだったのあいつ」


 カイに尋ねた。


「俺にも分からん。放課後机で寝てたら、この真っ白な世界に連れてこられて、俺と同じ顔のやつが出てきた」

「それでコテンパにやられて、憔悴しきってたところに死んだようなサラがこの世界にやってきて、終わりだと確信した。けど、リアが来てくれて、少し光が見えたんだ」

「本当にありがとう。リア」


「あぁ。連日の事件も、もしやこれなのかね?」


「かもしれん」


「「それよりここからどうやって普通の世界に戻るんだ?」」


「同じこと言うなよ!」


 私とカイ、2人とも目が合って、笑い合った。


「え!なにがあったの!!」


 サラは何が何だか分からないみたいだ。


「まあ色々あったけど、大丈夫だよ」


「うん。リアの言う通りだよ。なにも心配いらない」


「思うんだけどさ、この椅子が現実の世界と繋げてるものなんじゃないか」


「そうかも!!これ教室の椅子だもんね」


「じゃあこの椅子を三人で手に触れて、戻ろう」


「一緒に触れよう。せーの」


 カイの掛け声で、椅子の背もたれに3人で触れた。その瞬間、意識を失った。


 また起きたら、ここは教室だ。


「よかったぁ。戻ってこれた」


 私が起きたあと、2人は少ししたら起きてきた。肩を抱き合って、戻ってこれたことに嬉しがった。


 安心した気持ちと裏腹に不穏な空気を感じた。胸騒ぎがする。

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崩れゆく世界 和藤ユヒリ @saririsa

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