etc.02 兄上の秘密
ぼくは兄上がだいすきだ。
エドワード2世・インヴァネス。
いつか国王の王様、とても偉い人になる兄上。
たったふたりの兄弟だからじゃない。
カッコよくて、優しくて、でもときどき恐い顔をするエドワード。
どんなときに恐いかって、最近だとぼくが溺れそうになったとき……。
「アイリーンがいなかったら、どうなっていたことか」
ベットから起き上がれるようになったとき、そう言われた。
怒ったエドワードは、ぼくみたいに顔を真っ赤にしたりしない。むしろ顔色はいつもより白く、瞳は真っ黒に近くなって、まるで人形みたいな無表情になる。
声もなんだか感情がなくって、しゃべってるはずなのに、シンとした湖の底に沈められたみたいに音がない世界で言い聞かせられてる気分になる。
すごく恐い。
すごく怒ってるのが分かるから。
だから、ぼくはもう二度としないとおもう。
水の近くで身を乗り出すのは。
ーーでも、木登りしたり、高いところからジャンプしたり、マナーの練習をさぼったりはすると思う。
そっちはあんまり叱られないから。
ところで、ぼくは気づいた。
エドワード兄上もぼくのことが大好きだけど、兄上の婚約者のアイリーンもぼくのことが大好きだと思う。
ぼくもアイリーンのことが好きだ。
いい匂いがするし、綺麗だし。
それから、この夏に3人でよく遊ぶ間に、重大な秘密を掴んだ!
エドワード兄上がぼくを叱りそうなときは、アイリーンに助けてもらえばいいってことを。
兄上はアイリーンがいると、ちょっびり甘くなる。というか、アイリーンがぼくをかばって
「許してあげて」
と困ったような笑顔で言うと、兄上はすごく珍しく言葉が詰まったような顔をする。
そして
「だが……」
とか
「王族として……」
とか、何度かためらうけど、結局はいつもぼくに注意するときよりずっとずっと軽い物言いで終わらせてくれる。
兄上はいつか国王になる。
だけど、ぼくは知ってるんだ。
きっと、この国でほんとうに一番偉いのは、アイリーンになるんだって。
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