etc.01 ジェーンの手紙
親愛なるお兄様へ
先日はお手紙をありがとうございます。
「ジェーン姉さまに似合うように」と妹(いもうと)たちが選んでくれたハンカチは、大切に使っています。
喜んでいたと伝えてください。
今月のお給金といっしょにお母さまに膝掛けを送ります。
この冬は寒くなりそうだと杣人から聞きました。
どうか薪を気にせず暖かくして過ごしてね。
メイドとしての勤めが辛くないか、職場に馴染めたか、あたしを心配してくださっているお気持ちが伝わりました。
でも、どうかご心配なさらないで。
あたしはとても幸せに働いています。
この前は冬入りの日に使用人にもホットワインが配られたのよ。
普段の労働を労うため、と。
あたしはまだ勤め始めてひとつふたつの季節が過ぎたくらいなのに、申し訳ないくらい。
もちろん、そういった心遣いやお給金だけでなく、お仕えしている公爵さまもアイリーンお嬢さまもとても素晴らしい方だから。
わたしがお仕えするアイリーンお嬢さまがどんなに聡明で、可愛らしいか、いくらでも語れるわ!
これは秘密だけど、まるで妹のように愛しく思うこともあるの。
甘いお菓子が大好きで目を輝かせたり、髪を優雅に結衣あげるとほんのり嬉しそうに笑ったり。
もちろん、同い年の妹とたちと比べるまでもなく、公爵家のお嬢さまとして上品なのよ。
(ところで、妹たちは年相応に振る舞うようになったかしら? 誰が一番階段の高い位置から飛び降りられるかの度胸試しなんて、二度としてないわよね?)
……でも、あたしの本当の妹たちと比べても、アイリーンお嬢さまは大変な人生を歩んでいるわ。
お体が弱いのは以前も手紙に書いたけれど、どんなに高熱を出した時も、「苦しい」とか「もう嫌だ」なんて弱音を吐かないの。
あたしたちには言わないけれど、公爵家の者としての矜持なのかもしれない。
我慢強いんだわ。
それだけじゃない。
少しでも体調が良い時には、少しでも公爵家の者として学びたいからと書籍を読んだり、寝たきりでは良くないからと汗するまで庭を歩いて回って使用人に声をかけて回ったり。
なんだか必死で、少し痛ましくなってしまうくらい……。
ああ、でもね。最近少しお変わりになったのよ。
エドワード殿下がアイリーンお嬢さまを初めてお訪ねになってからね。
殿下とは婚約者として初めて会ったはずなのに、まるで以前からの友人みたいに話が弾んでいるようで、あたしまで嬉しかったわ!
でも、不思議なのは、やけにお二人が二階から庭先までの高さの話で盛り上がっていたことね。
貴族や王族にとっては、二階のバルコニーがどんなに高い位置にあるかって、そんなに大切なのかしら?
その頃から、なんだか以前より柔らかい表情をするようになられたわ。
前以上にいろいろな勉強に励まれて、体力は心配になってしまうけれど、気持ちに余裕があるような。
それまでのーーなんていうのかしら、どこか悲壮な印象がなくなった気がして……。
……なんて、ただのメイドがおこがましいわね。
だいぶ長い手紙になってしまいました。
また次の季節に連絡します。
それまでどうかお元気で。
あなたを敬愛している妹
ジェーンより
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