第42話 手紙


 今年の冬はいつもより嫌いじゃないと思ったけれど、やはり雪解けは待ち遠しい。

 冬の間は、エドワードと会うことはもちろん、文通にも時間がかかる。



 けれど、そんな手紙が心を慰めてくれた。

 手紙だからこそ伝えてられることもあるのだと感じる。

 二度目の今は、「そういえば一度目の人生でも彼にこの手紙をもらったのだわ」と、なんだか懐かしく愛しくも感じられる。





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ーー親愛なる窓辺の令嬢、アイリーンへ




首都からこの手紙が届く頃には、冬の最も冷たく美しい季節だろうね。


君はあまり寒さが得意じゃないと知っているけれど、僕は案外この冷たさが嫌いじゃない。


今日はこの国の中でも特に寒いと言われる、国境沿いの王家の領地に来ている。


白と青が入り交じった山脈が天を衝いていて、見渡す限り一面が真っ白なんだ。王都よりも雪が深く、夏でもひんやりとした気候らしい。


こうしていると、人間などちっぽけな存在だと感じる、荘厳な雰囲気だ。


ただ、美しい景色とは裏腹に、この寒さ故に夏でも穀物がなかなか育たない地域でもある。これまでは羊毛とそれを使った毛織物が主な産業だった。


けれど、別大陸での綿花の栽培によって、衣服や布製品の価格が下がりつつある。そのせいで今後の収入に危機感がある地域だ。


こういった地域に済む民を、どう支えていくかも今後の我が国の課題だろうな。


長くなってしまった。


いつか君とここを共に訪れて、この景色を一緒に見て、この地域のあり方について話をしてみたいな。


とはいえ、今年はどうかあたたかくして、体調を崩さないように過ごして欲しい。


明日には視察を終えて王都に戻る予定だ。都では社交やパーティーで忙しくなるだろう。


疲れたところに君からの返事があることを楽しみに励むこととする。


どうか夏にまた会うまで元気で。




   元・名無しの見習い騎士より




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ーー冬がお好きなエドワード様へ




お手紙に感謝いたします。そんなにも寒い場所に赴かれたのですね。わたしなら寒さに震えて、途中で引き返すことになってしまうかも。


けれど、いつかエドワード様とともに、その冷たく美しい世界を目に出来たらと、楽しみでなりません。


夏にお会いするときには、直接その景色を見たときのお話をうかがいたいです。


とはいえ、産業の変化にも目が向くエドワード様のこと。きっと景色だけでなくもっと他のお話でも盛り上がって、長いお茶の時間になってしまうかもしれません。


羊毛のことも。ほんの少し前まで、貿易のなかで羊毛が主要な商品であったそうですね。とくに王家の所領のものは品質が良く、高値で取引されていたと拝見しました。


時代の流れとは面白くも恐ろしいもの。


大量の綿花が輸入され、人々がその身にまとう衣服は毛織物から綿織物が中心となりました。重くて手入れに手間もかかる毛織物から、より安価で洗濯もしやすい綿織物になったのは、人民にとって嬉しいできごとなのでしょう。


しかし、それが珍重されていた羊毛の価値をさげることになるとは。


それまで我が国で大切にされていた産業が、まったく価値を変えてしまうなんて……。


これも綿花の一大栽培地との新たな貿易路の開拓など、時代の波によるもの。ただ嘆いてばかりもいられませんね。


そうやって前を向くエドワード様のお力となれるよう、わたしはこの冬も必死です。


学んだ知識をお話しできるよう準備中なので、夏にお会いするのをお楽しみになさってください。




   元・窓辺の幽霊 アイリーンより



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 お互いに見聞きした物事や、興味があるできごとを書き連ねて、何通も送った。



 エドワードは王都から離れることも多いので、旅先からの手紙もしばしば送られてきた。



 そうして過ごしているうちに、気づけば冬の吹雪はいつの間にか春風と交代している。

 雪解けがやってきて、木々が芽吹き、小鳥たちがチュンチュンと春を告げると、一気に屋敷の内外が騒がしくなる。



 それは国民の誰もが待ち望む瞬間。



 冬の間はみんなが「沈黙のゲーム」をしているように息を潜めているのに、春の勝利と同時に一斉に笑い声をあげるような、待ち望んだ瞬間がやってきた。




   ⌘ ⌘ ⌘


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