第41話 建国神話



 飢饉の対策と平行して、秋から冬にかけてわたしが行ったことがある。

 それは集めた文献にできる限り取り寄せて目を通すこと。

 時を遡った原因に関係しそうな逸話をできるだけ多く、執事に言って取り揃えてもらった。



 結果としては、めぼしいものは少なく、ほとんどは空振りだったけれどーー。



 目を通していて、あらためて興味深く感じたのは、建国神話のある箇所だった。

 そのページで、本をめくる手が止まった。




 ーー王家に伝わる、古からの魔法を秘めているという宝玉。




 その秘宝にまつわる詩の一節。

『建国神話』




   王の血を引く若者よ

   褒美に宝を授けよう

   お前の望みを尋ねよう


   お前ひとりの頼みなら

   王に若さをもたらそう


   二人でひとつ願うなら

   時を戻して叶えよう


   三者そろった祈りなら

   死者の時さえ変え賜う


   なにも願わず済ますなら

   未来の子らに幸福を





 この国の子どもから老人まで、誰でも知っている一節。

 気になるのは、あの殺された夜、わたしは腕に王家の宝玉を抱えていたこと。

 そしてこの詩のフレーズが目について離れなかった。

「時を戻す」というあり得ないできごとと、あのときわたしが抱えていた「宝玉」。

 その二つが実際にこの歌に重なるのは、見過ごせない事実のように思えた。




 ーー古代魔法を秘めた宝玉の力で、11歳の夏まで時を遡った?




 そんなことがおこりえるのかしら。

 太古の不思議な魔法はほとんど失われている。

 王家の秘宝にはその力があるのかもしれないけれど……。

 わたしは一人で宝玉を抱えていただけ。

「時を戻す」ときの「二人でひとつ願う」という表現には当てはまらないと思う。




 とはいえ、確かめたくても、残念ながら宝玉をはじめとする王家の3つの品は、気軽には見れない品だ。

 たとえ公爵家の力を使えたとしても難問には違いなかった。




 そんな宝玉に、一度目の人生では2回も触れる機会があったのだから、不思議なものだわ。



 そこからはこの宝玉にまつわる逸話を中心に文献を探してみたけれど、伝聞のためか他に信頼に足りるものはなかった。

 時を遡った原因を探ることについては、いったんここまでがこの冬にできた全てだった。




 いずれ訪れるだろうチャンスを待って、宝玉や伝説との関連について確かめるしかなかった。




   ⌘ ⌘ ⌘

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