第30話 記憶〜王家の秘宝〜(3)



「アイリーン……」


 エドワードは泣きそうな顔で無理に笑った。


「ありがとうーー」


 その美しい瞳から、ぽろりとしずくが溢れるのが見えた。





「僕は……僕たちは二人で支え合って進んでいく。大切な人を死なせないために、不幸を減らすために。いつか大人になるとき、同じ悔しい思いをしないように」





 そこで、エドワードはすぅっと息を吸い込んで、誓いをこめるように宝玉にささやいた。





「もしそれでも運命の濁流に呑み込まれそうになったときには、時の神に祈るかもしれない。助けて欲しいと。どうかその時に、僕らが正しく誓いの通りに歩んできていたなら、そのまま良き主導者となれるように、どうか慈悲を与えてほしい。もし僕がその時に本来あるべきでない欲に溺れた姿であったら、罰を与えても構わないーー」





 エドワードが口にし終わった時、いっそう強い光が溢れて……!


 思わず目を開けていられなくなった。





「ーーっ!」




 けれど、それはほんの一瞬。すぐに光は静まり返り、宝玉は元来た時の通りに、ほんのり淡く発光する姿に戻っていた。





「…………」


「…………」


「これは……願いを聞き入れてくれたということなのかな?」


「……どうなのかしら? なにか変化を感じる?」





 顔を見合わせたけれど、特に何も変わった気配はなかった。

 むしろ、先ほどまでの光の強弱はただの幻だったかのように、宝玉は平然としている。





「エドワード様!」


「お嬢様!? まだですか?」





 そこで扉の外から焦ったような男女の声がして、わたしたちはハッとした。




「急いで出てきてください!」


「どなたかが階段を上がってきているようなのです!」





 そのままあわてて四人で図書室まで戻り、何事もなかったように過ごしたのを覚えている。

 そのあともたひだび、わたしとエドワードはあの小さな冒険を思い出しては懐かしく語り合った。


 けれど不思議なこともあった。


 エドワードとの結婚準備をする際に、王家の三つの秘宝の管理帳に目を通したとき。

 そこには、エドワードの叔父さまの成人以外では、持ち出された記録がなかったのだ。





 つまり……わたしたちが生まれてから目にする機会はなかったということ。





 だとすると、わたしたちが見たのは、レプリカだったのだろうか?

 もしくは、わざわざ誰かが秘密のうちに持ち出した……?


 とはいえ、結婚前の慌ただしさもあったし、幼い頃の遠い日の記憶だ。

 結局、わたしとエドワードの間では「あれは幻だったのかもしれない」という思い出話に留まり、追求することなく過ぎ去った違和感だった。





   ⌘ ⌘ ⌘

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る