第29話 記憶〜王家の秘宝〜(2)

 わたしたちは目を見合わせた。

 そして、一歩一歩、慎重にその光へ近寄っていく。





「これは……」


「伝説の中の宝玉そのものだわ……」





 頭の中には、ある詩が巡っていた。

 つい口ずさむ。





「王の血を引く若者よ……」


「褒美に宝を授けよう、お前の望みを尋ねよう」


 エドワードがそっと笑って、冒頭に続く一節を口にした。


「あの宝玉よね?」


「うん、そうとしか思えない」


「でも……なぜこんなところに?」


「普通に考えれば、王が持ち出したんだろうが……」


「……わざわざ、ウィリアム王子のために駆けつけたときに持ってきたの?」





 エドワードも、自分の説に納得していないようだった。






「もし本物の宝玉なら、触れれば反応するはずだ」


「…………」


「……王の血を引く若者の……願いを尋ねる宝玉」





 わたしがためらっているうちに、エドワードは大胆にも宝玉に触れた。

 その瞬間、光がより強く溢れる。





「エドワード……!」





 わたしは戸惑って彼の顔を見た。

 そしてハッとする。




「もし……僕がすでに成人した大人で、ウィルのそばにいたなら、弟は死ななかったかもしれない……」





 彼はふざけてなどいなかった。


 エドワードは泣きそうに顔を歪めていた。




「僕は、僕の大切な人を守りたい。そんな力が欲しいと思い知らされた」





 エドワードはやはり、自分をどこかで責めていたのだ。





「弟が苦しんでいたそのときに、僕は何も知らずにいた。近くにさえいなかった」


 望みを叶えるという逸話がある宝玉に向かって、懺悔していた。


「なざ、まだ僕は無力な子どもなんだろう」


 わたしは彼をそのままにしておけなかった。


「それどころか、父や母を慰めることさえ満足にできない……」





 思い切って、そっと彼の手に自分の手を添える。

 今度はエドワードがハッとしたようにわたしを見た。

 大丈夫、と言う代わりにその目を見つめて微笑んで見せる。



 不思議なことに、さらに光は一段と輝きと強さを増した。

 わたしは正式な王族ではないのに。





 ーーでも、そういえば祖母は王妹だったのだ。




 わたしにも願う権利があるのなら……。





「エドワードが願うなら、わたしはそんな彼を支えたい……。なにもできなかったのはわたしのほう。でも、いつか彼と共に歩む時にはーー再びこの宝玉に触れる婚姻の時には、きっともっと賢く、うまくエドワードを助けられるようになっているから」


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