第28話 記憶~王家の秘宝~(1)


 エドワードの言葉でわたしがふと目線をあげると、少しだけ開いていた扉の隙間から光が漏れていた。




 普通の光ではない。


 太陽ではないだろう。


 虹色のような……。




 淡いけれど、不思議と清浄さを感じさせる色合いだと思った。




「あれは、国王の執務屋だ」


「……王さまは?」


 エドワードは首を横に振った。


「ウィルの亡くなった日にここに来て以来、ずっと寝室で……落ち込んでいらっしゃるようだ」


「そうなの……」


「ここも寝室も、カーテンすら閉め切っているから、光は差し込まないはずなのに」


「灯りが点いているってこと?」




 少し子どもらしい好奇心もあったが、半分は心配が占めていた。



 どうやらエドワードも同じらしい。




「もしこの光がろうそくなら、灯したままになっていたら危ないと思うのだけど」


「勝手に入るのもよくないかしら……」


「うーん。でも鍵も空いているし、気づいてしまったしなあ」




 わたしたちは頷き合って、従者とジェーンを振り向いた。




「灯りを消してくる」


「他のものには手を触れないわ」


「でしたら……わたくしどもが」


「いや、僕たちの方がいいと思うんだ」




 エドワードはきっぱりと言い切った。




「あのおじいさまの気質だ。もし立ち入ったことを聞きつけたのが機嫌が悪いタイミングだったら、君たちを罰しようとするかもしれない。でも、一応僕とアイリーンは血族の子どもだ。ウィルの件で心を痛めているいまなら、多めに見てくれるんじゃないかな」




 わたしはこのときまだ国王と会ったことはなかったけれど、従者がごくりと唾を飲み込む様子から、時には恐ろしい人なのだろうと察した。




「大丈夫。すぐに出てくるわ」


 わたしは念を押す。


「扉の前で待っていてくれ」


「もし誰かが来てしまったら教えて?」




 従者ジェーンが戸惑っているうちに、エドワードとふたり、そのままさっと扉のうちに身を滑り込ませてしまった。




「アイリーさまっ、早くお戻りになってくださいね!」





 少し慌てた様子でジェーンがささやいた。

 けれど、わたしはもちろん、エドワードもすぐには応えられなかった。





 ーー目の前に、あるはずのない『宝玉』が鎮座していたから。






 王家に授けられた三つの宝のうちのひとつ。

 王都で厳重に保管され、王族の成人や結婚の儀式でなければ開帳されない、あの秘宝が。


 子どもの腕には一抱えもあるほどの、巨大な丸い水晶体は、虹色に淡く光を放っていた。


 この光が扉の隙間から漏れていたのだーー。


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