第25話 国王陛下(2)
この、威圧的で凍てつくような冷たい紫の瞳。
「はい、王国の太陽にご挨拶申し上げます。こちらはアイリーン。わたくしの婚約者であり、ウィリアムの命を救った少女でもあります」
「お初にお目もじつかまつります」
わたしは王に向かって礼をする。
「お前がエリザベスの子孫ーーそして二世(これ)の婚約者か」
「あっ!」
グッと顎を持ち上げられて、王と目が合う。
「ふっ……よく似ている」
誰になのかは聞けなかった。
母なのか、父なのか……? それともエリザベスおばあさま?
わたしはとっさの出来事に固まってしまって、指先を震えさせることしかできない。
王とはいえ、婚約者への無礼に、とっさに隣でエドワードが止めようとしてくれるが「動くな」と王に片手で制された。視界の端で、いつも落ち着いている彼が顔を歪めるのが分かった。
「……さすが品がある顔立ちだ」
鮮やかな王家の紫色の瞳とかちあった。でも、エドワードとは違う。冷たくて親しみのカケラもない瞳。
頭の片隅がチクチクと刺激される。
品定めされているんだわーー。
「……瞳にかすかに王家の紫を宿しているな」
強制的に上向かされている首が痛くなってきた。
「だが髪は金ではなく白銀」
急に声に憎々しい色が混じって、わたしは息を呑んだ。
金髪は王家に多く、お祖母様の髪色でもある。一方で白銀は公爵家に稀に現れる色で、この国では珍しい。
王の憎むような目線に、なぜか脳裏に蘇ってきたのは、結婚式の前夜にわたしを殺したエドワードの冷たい表情だった。
あのときの彼とーーひどく似ている。
いいえ、似ていて当然なのよ。
わたしは心の中で自分を落ち着かせようと喘いだ。だって彼はエドワードの祖父なのだから。それに、彼が王と似ていることは肖像画で知っていたじゃない。
けれど、王の鮮やかな紫の瞳に刺激されて、急にあの結婚式の日の記憶が溢れ出してしまう。
あの殺された夜、必死に走る暗闇の後ろから迫ってきた殺意。
鈍く光る、振り上げられた剣。血の匂い。
そして、わたしを冷たく見下ろすエドワードーー。
一気に手足から血の気が引いていく感覚があった。
「アイリーン!」
心配そうなエドワードの声が遠くで響いたけれど、答える間もなく視界が薄暗くなり、めまいがして足元がふらついてしまった。
「うっ……」
斜め後ろにいたエドワードがさっと支えてくれたのがわかった。肩にある彼の手は温かかった。
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